「高畠華宵画集ジェンダーレスなまなざし」内田静枝編

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 大正から昭和の初期、多くの少年・少女雑誌で活躍した人気挿絵画家・高畠華宵(1888~1966年)の作品とその人生を紹介するアートブック。

「LGBTs」であることを自任していた華宵が描く人物画は、「少年の中には少女が、少女の中には少年がいる」と評され、読者である少年と少女のどちらをも魅了したという。

 海の上で1人は凛々しいまなざしで一心にオールをこぎ、もう1人は号令をかけているかのようなボート上の2人の少年。他にも、進軍する兵士たちの先頭で太鼓を打ち鳴らしながら鼓舞する軍服姿の少年や、刀の切っ先を突き付けられても動じないふんどし姿の総入れ墨の青年、そして大人の男たちを相手に大立ち回りを繰り広げる少年剣士など。

 いずれも切れ長の三白眼で、ふっくらと柔らかい頬に日本人離れしたすらりとした体形など、確かに氏の描く少年たちは、表情だけ見れば、男性とも女性とも分からないジェンダーレス、いやその両方を併せ持つ両性具有的な妖しい魅力を放っている。

 華宵が活躍した時代は、教育現場では男女別学が徹底されていた。最大の娯楽であった雑誌の紙面でも、異性に憧れるという内容は排除され、少年雑誌には少年だけの、少女雑誌には少女だけの憧れの世界が描かれていたという。

 そんな中、読者は両性具有的な華宵の絵に意識せずとも、異性に対するセクシーな魅力を感じ取っていたようだ。

 少女を描いた華宵の作品も同様、深窓の令嬢からスキーに興じる活発な少女まで、その髪形やファッションは最先端のものを身にまとっているが、描かれる表情は少年たちと変わらず、中性的な魅力を感じる。

 こうした作品ゆえに、当時では珍しく華宵は少年雑誌、少女雑誌の双方で活躍することができた。

 性別というボーダーラインをあいまいにしたその作品で、おそらく本人は、男女の区別にこだわることの無意味さと、人間としての魅力に目を向けることの大切さを描きたかったのではなかろうか。そんな氏の世界が堪能できる多くの作品を収録。

 一方で、愛媛県宇和島市の商家の次男坊に生まれた幸吉という少年が、父の早逝などの苦難を乗り越え、画家としてデビュー、そして自らもファンに追われるスターのような生活だったという大邸宅での優雅な暮らしぶりから、不遇を極めたという晩年まで、その人生を写真を添えてたどる。

 晩年を施設で過ごしていた華宵だが、かつてファンだった弁護士・鹿野琢見氏との交流をきっかけに再び活動を始める。少年時代に見た華宵の作品を忘れられなかった鹿野氏は、同好の士を集めファンクラブ的な「華宵会」なる集まりを主宰。その尽力で再び脚光を浴び始めた矢先、華宵は78歳の生涯を閉じる。

 鹿野は譲り受けた華宵の作品を展示するための美術館を設立。その「弥生美術館」(文京区)では本書と同じタイトルで企画展を開催中(9月26日まで)だ。

 (河出書房新社 3135円)

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