「BANKSY」 ジョン・ブランドラー/アレッサンドラ・マッタンザ著 高橋佳奈子訳
神出鬼没の世界的ストリートアーティスト、バンクシーの作品を紹介しながら、その作品に込められたメッセージを読み解くアートブック。
バンクシーは、ストリートアートを建造物の破損という犯罪行為から高値で売買される高尚なアートへと昇華させた。
事実、2009年にイギリス、ブリストルで展示された格式ある議場を猿の議員が埋め尽くすさまを描いて議会を痛烈に皮肉った「Devolved Parliament(退化した議会)」という作品は、1000万ポンド(約15億円)もの高値で取引された。
しかし、彼はそんな金銭的な成功には興味がないようだ。
望みは、街の誰もが目にできる大衆のためのアートを創作することだが、その意思に反して描かれた壁ごと持ち去られ、オークションで売られることも多い。
そうした風潮をあざ笑うかのように、オークションで売れたばかりの作品を額縁に仕掛けを施して、居合わせた人々の眼前で裁断してみせたこともあった。
壁に描かれたアートは誰のものなのか。描いたアーティストか、壁に落書きされた建物の所有者か、それともアーティストが作品を見せたいと思った街の人々のものなのか。
そのジレンマがあるからこそ彼は作品がその場から取り去られて売却されないように、自分の作品であることを認めることを拒むという。
そんな彼が世界各地の街角で防犯カメラやパトロール中の警官、そして通行人の目を盗んで描き上げたストリートアートを中心に、オブジェや絵画、展示物までさまざまな作品を取り上げ紹介する。
ラスコー洞窟を連想させる先史時代の壁画を消そうとしている作業員の絵には、壁の落書きに対する世間の評価への痛烈な皮肉と、ストリートアートへの愛がこもっている。
他にも、どんな場所にも出没することを暗示するかのようにヘリコプターやパラシュートをつけたネズミをはじめ、今では彼のアイコンとなったさまざまなネズミの作品、「今は笑っていればいい。でも、いつかおれらが支配する」と書かれたプラカードを下げたサル、いつもホームレスが寝ていたベンチをサンタのそりに見立て、そのそりを引くように後ろの壁に描かれた2頭のトナカイの絵など。
見る者を立ち止まらせ、ふと考えさせる作品から、反戦のプラカードなどにも使用される「爆弾を抱く子供」や、ヨルダン川西岸の平和をテーマにした「怒り、花を投げる人」、そしてイギリスのEU離脱への反対を表明するためにEU旗から星を1つ削り取ろうとしている作業員を描いた作品のようにストレートなメッセージが込められたものまで、約140点もの作品を網羅。
他にも、チャリティーショップで購入した油絵に手を加えた作品や、動物虐待を告発するトイレから飛び出すシャチのオブジェ、さらに彼がパレスチナ問題への抗議と批判を表明するためにベツレヘムに創設した「ザ・ウォールド・オフ・ホテル」の内部まで。
その活動の全貌を一通行人として楽しむべし。
(新星出版社 3850円)