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「ハイブリッド戦争の時代」志田淳二郎著

 アフガン情勢から中ロの軍事進出まで、21世紀の戦争はかつての常識を大きく超えている。



 2014年のウクライナ危機と2020年の「防衛白書」に明記されて以降、注目を集めるのがハイブリッド戦争。「意図的に民間と軍事目標の境界をあいまいにする武力紛争未満の取り組み」と定義されるが、これだけではわかりにくい。

 沖縄の大学で国際政治と安全保障論を教える著者によれば、専門家の間でも定義には諸説あるという。防衛白書は「純然たる平時でも有事でもない幅広い状況」で「外交交渉に拠らず」「武力攻撃に当たらない範囲」で「現状の変更」を目指す行為とした。つまり従来の常識で「戦争」にならない範囲や手段で戦争と同じ効果を上げようとするわけだ。憲法9条を守ってさえいれば平和だというのは旧態依然の考えになりつつあるともいえよう。

 本書は欧州を中心に米中、台湾有事などさまざまな問題にかかわるハイブリッド戦争を論じながら、日本の針路は「日米同盟の強化と防衛力整備」とするが、ハイテクに特化してIT技術にもとづく経済振興から安全保障まで、軍事力なき国家防衛の道を探ることも可能になるのではないか。

 本書もいうとおり、ハイブリッド戦争最大の特徴は「狙われる民主主義」にあるのだ。

(並木書房 1760円)

「データで知る 現代の軍事情勢」岩池正幸著

 防衛省の情報調査室や内閣情報調査室でインテリジェンスの分析に長年たずさわってきた著者。米中ロをはじめとする国際的な軍事情勢の実態を、通常戦力、核抑止、宇宙とサイバー空間など多岐にわたって紹介する。

 たとえば北朝鮮は「陸」と「空」の戦力が相対的に弱体化している中で、「非対称戦力」の充実をめざしているという。ちかごろ力を入れる弾道ミサイルは既に核弾頭を搭載することができる段階に至ったほか、襲撃・破壊工作をはじめ暗殺や誘拐、敵勢力の中での情報撹乱を目指す特殊部隊の充実なども顕著。韓流ドラマに出てくるような設定はけっして夢物語ではないのだ。

 本書は最終部で米軍の存在感を過大評価してはならず、「等身大の米軍を理解」することの重要性を説いている。

(原書房 2640円)

「戦争の新しい10のルール」S・マクフェイト著 川村幸城訳

 米陸軍の空挺師団で指揮官をつとめたあと、民間軍事会社に転じ、いまは米国防大学の戦略学の教授となった著者。まさに実践と理論の両面から戦争の現実を知る存在だといえよう。本書で説く現代戦の実情はこうだ。

 (1)通常戦の終わり(2)テクノロジー頼みは当てにならない(3)戦争か平和かの二択の時代は去った(4)民心を得ることは非民主主義国家では重要ではない(5)未来の戦争では非軍事的手段こそがカギを握る(6)「世界で2番目に古い職業」といわれる傭兵が復活する(7)従来型の国家権力は退潮し、代わってグローバル企業や民間軍事会社、さらには国際犯罪組織までが進出する(8)国家間の戦争が退き、戦争自体が再定義される(9)情報が強力な武器となり、「影の戦争」が主流となる(10)なにが「勝利」といえるのか、その考え方そのものが変化する、の10点。

 まさに常識をくつがえす時代の到来だ。

(中央公論新社 2970円)

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