ネットの暗黒
「デジタル馬鹿」ミシェル・デミュルジェ著 鳥取絹子訳
暴言大統領トランプのSNSアカウントは停止されたものの、ネット世界はあいかわらずの罵倒悪口のオンパレードだ。
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インターネットは世界中で使われているから、その利便も欠点も世界共通。とはいえフランスでベストセラーになった本書を読むと、当たり前のことを改めて実感させられる。
たとえば、10代の若者たちは「デジタルネーティブ」などと呼ばれて、あたかもデジタル技術に通じているようだが、実は単に機器の操作に慣れているだけで、情報の管理はヘタ。クラウドに何でも放り込んで検索すれば出てくると思い込んでいるため、情報の選別や整理や統合は「恐ろしいほどできない」。簡単にニセ情報にだまされる彼ら「グーグル世代」を検索のエキスパートと思うのは「危険な神話」というのだ。
本書は、0歳から初めて子供にデジタル機器を使わせるには、どうコントロールすればいいかも具体的に解説する。
その中で「親のデジタル消費を減らす」というアドバイスは有効。近ごろの若い母親らは電車でも歩いているときですら、子供の手を引きながらスマホに夢中になって見入っていたりする。これでは子供をデジタルの害から守ることなど不可能。書名は乱暴だが、中身は緻密な議論で説得力がある。
(花伝社 2200円)
「炎上する社会」吉野ヒロ子著
ネット炎上は、いまや改めて解説の必要もないぐらい知られているだろう。芸能人の中には落ち目になったところで意図的に炎上を仕掛けるのも珍しくない。ネット炎上について書いた本は少なくないが、本書は企業の炎上に対象を絞ったところがユニーク。著者は「広報学」の専門家というだけに、炎上現象を並べるだけでなく、どこのサイトで炎上が起こっているかを、どう知ったか(認知経路)やそれに対する反応なども量的調査で具体的に裏付ける。
炎上現象は「便所の落書き」と呼ばれた「2ちゃんねる」の書き込みから始まったが、SNSの普及で瞬く間に一般に広まったのだ。パソコン店に対する不満を書き込んだ一個人のツイートから始まった炎上、人気ラーメン店の客とのトラブルから始まって、テレビニュースにまでなった炎上など、具体的な事例をはさんだ分析がいい。
(弘文堂 2420円)
「この国を覆う憎悪と嘲笑の濁流の正体」青木理、安田浩一著
街頭で醜悪なヘイトスピーチを叫ぶ輩が出てきたのとネットでSNSが広まったのは実は同時期。そのころから劣化、沈滞、忖度、不寛容、排他などという言葉も頻繁に耳にするようになった。
本書はともにベテランのフリージャーナリストとして活躍する2人による対談だが、その冒頭で青木氏はヘイトスピーチの初期、甘くみていたと反省の弁を書いている。それは「一部の愚劣な輩による突飛な暴走」とは言い切れなかった。というのも右傾化した政権が歴史を軽んじ、憎悪と敵意を先導し、その尻馬に乗った一部メディアとネットがあおったあげく「醜悪で愚劣な差別を街頭に解き放つ誘引剤」となったからだ。
メディアの劣化が叫ばれる中での痛切なメディア批判だ。
(講談社 990円)