「色彩のデザイン図鑑」ティム・トラヴィス編 柏木博監修 井上雅人ほか訳

公開日: 更新日:

 世界は色にあふれている。人間は言葉を話すよりも前に、色の識別をしていたという。日没や果実の成熟、紅葉、頭髪など、色の変化は死を想起させる。一方で色は排除と差別にも用いられてきた。

 1660年代、あのニュートンが、色は事物に固有のものではないことを発見。事物が個別の色を示すのは、その表面が可視スペクトルの特定の波長の光を反射し、他の光を吸収するからだと。

 本書は、そんな身近な存在でありながら、知れば知るほど不思議な色をテーマにした図鑑。芸術、デザイン、工芸を専門分野とする英国の王立ビクトリア・アンド・アルバート博物館のコレクションから厳選した作品を色をテーマにして分類し、色彩という切り口から文化とデザインの流れを一望した大作だ。

 まずは「白」。色が欠如したり、ないように思われがちな白だが、実は目に見えるあらゆる色の総体にほかならない。可視スペクトルのすべての色が目に入る時に、その事物は白に見えるからだ。

 日本では花嫁が純潔を意味する「白無垢」をまとい、キリスト教では赤子の洗礼は白い衣装を着せるのが伝統となっているように、物事の始まりを表す白は、誕生や結婚など人生の重要な通過儀礼で身に着けられてきた。

 一方で、白は中国をはじめ、多くの国々で死を悼む時に身に着けた最古の喪の色でもある。17世紀の洗礼式用装束や、亡き幼子の生前の姿をとどめるために作られた白い陶像などの収蔵品を例に解説。

 以降、つかみどころがなく、自律的に主張することがまれな「灰」から順に、黄、橙、桃、赤、紫、青、青緑、緑、茶、黒の全12色の織り成す色彩の世界を一望。色について改めて考えさせられ、啓示を与えてくれるデザイン関係者にお薦めの書。

(東京書籍 4180円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    世良公則氏やラサール石井氏らが“古希目前”で参院選出馬のナゼ…カネと名誉よりも大きな「ある理由」

  2. 2

    国分太一が社長「TOKIO-BA」に和牛巨額詐欺事件の跡地疑惑…東京ドーム2個分で廃墟化危機

  3. 3

    浜田省吾が吉田拓郎のバックバンド時代にやらかしたシンバル転倒事件

  4. 4

    “お荷物”佐々木朗希のマイナー落ちはド軍にとっても“好都合”の理由とは?

  5. 5

    「いま本当にすごい子役」2位 小林麻央×市川団十郎白猿の愛娘・堀越麗禾“本格女優”のポテンシャル

  1. 6

    幼稚舎ではなく中等部から慶応に入った芦田愛菜の賢すぎる選択…「マルモ」で多忙だった小学生時代

  2. 7

    「徹子の部屋」「オールナイトニッポン」に出演…三笠宮家の彬子女王が皇室史を変えたワケ

  3. 8

    TOKIO解散劇のウラでリーダー城島茂の「キナ臭い話」に再注目も真相は闇の中へ…

  4. 9

    新横綱・大の里の筆頭対抗馬は“あの力士”…過去戦績は6勝2敗、幕内の土俵で唯一勝ち越し

  5. 10

    フジテレビ系「不思議体験ファイル」で7月5日大災難説“あおり過ぎ”で視聴者から苦情殺到