「江戸東京草花図鑑」岩槻秀明著
外来種があふれる東京の植物だが、よく見ると江戸時代以前から自生する在来種も意外に多く見つかり、けなげに命のバトンをつないでいるという。本書は、そうした、今も東京で出合うことができる在来種の草花だけを集めて紹介する写真図鑑。
身近で、街中でも普通にお目にかかる「ヤマノイモ」もそのひとつ。実はこの野草の芋があの自然薯で、地中に向かって真っすぐ伸びる自然薯を掘るのは大変だが、夏から秋にかけて葉の脇にできる「むかご」は手軽に摘むことができ、食卓をにぎわす。
「エノコログサ」は、雑穀のアワ(粟)のもとになったといわれ、この草も穂を火であぶると香ばしく食用にもなる。古くは粟同様に食用されていたという。別名のネコジャラシは今は全国で通じるが、もとは東京の方言名だったそうだ。
一方、古今和歌集や芭蕉の俳句にも登場し、美しさで知られる「ネジバナ」。野生のランだが、大都会のど真ん中でも目にすることができる。かつて常陸の国でつくられたねじり模様が入った染織物に見立て「モジズリ」の別名を持ち、名の通り、花の穂がねじれるようにらせん状につく。
そんな街や人里、野原などで見つけることができる草花から、日本古来の観葉植物で江戸時代に大ブームとなった「万年青(オモト)」や、球根に甘みがあり「天明の飢饉」で多くの人を飢えから救った「ツルボ」などの「林・里山」の草花。さらに猛烈な勢いで繁殖するヨーロッパ原産の特定外来種オオカワヂシャによって生育場所を奪われ絶滅の危機にある「カワヂシャ」などの「水辺の草花」まで、生育場所・四季別に雑草・草花145種を網羅。
花や果実の色で検索できる一覧表も添えられており、散歩の楽しみがまたひとつ増えそうだ。
(エクスナレッジ 1650円)