「SDGsバブル崩壊」渡邉哲也氏

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「SDGsバブル崩壊」渡邉哲也著

 カーボンニュートラル、化石燃料の使用、再生可能エネルギーなどと紐づくSDGsがブームとなり、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字をとったESGの3つの視点が必要だという考え方が近年広がった。そうした企業への「ESG投資」は、今も多くの日本の証券会社などで推奨されている。ところが「“理念先行”のビジネスはもう終わった」「SDGsバブルは崩壊した」と断言するのが本書だ。

「ESG投資は2006年に当時の国連事務総長アナン氏の提唱で生まれました。15年に『持続可能な開発のための2030アジェンダ』が国連で採択され、SDGsが叫ばれるようになったものの、ESG投資が注目されるのは20年に米国でバイデン氏が大統領選で勝利してから。彼は気候変動対策を目玉政策とし、莫大な補助金を出す“グリーン(環境にやさしい)予算”を組んだため、環境関係の新ビジネスが続々と生まれ、盛んに投資されたわけです」

 その頃、アメリカのEV大手「テスラ」の株価が急騰したのを記憶の向きも多いだろう。実際、ESG投資はバブル状態となる。EVのほか、太陽光パネル、風力発電などいわゆるエコ産業が国境を超えて活況を呈したのだ。ところが、コロナ禍の移動制限などで経済活動が休止。その後2年でSDGsバブルは崩壊したと著者。その経緯が興味深い。

本書は警鐘を鳴らすにとどまらない

「去年の米国中間選挙で予算を決定する下院を共和党がとって、民主党のグリーン政策に『ノー』を突きつけたんですね。するとインフレが起こり、グリーンウォッシュが問題化されていきました。グリーンウォッシュとは、『Green(環境にやさしい)』と『Whitewashing(うわべ)』を合わせた造語。『環境にやさしい』の表現を具体的に示さずに使ったり、環境負荷を少なく見せる広告イメージを使ったり、まやかしだらけ。騙しビジネスだと」

 ESGへの関心が高い層は「意識高い系」だと著者は言う。しかし、彼らが好む、環境負荷が少ないとされる太陽光パネルの多くは緑地を破壊して設置される上、発電の際にCO2を発生させている。EVは、世界中のガソリン車から取って代わるには地球3個分のリチウムが必要。エコバッグは布製でも最低限250回利用しないと環境負荷はレジ袋より大きいとか。イメージはいいが実は非合理的で、環境負荷を増やしているものが多いのが現実らしい。

「今年3月、シリコンバレーのエコシステムの中核を担ってきたシリコンバレー銀行が破綻。大手格付け会社がESGファンドを一斉格下げし、米国の保険会社や運用会社はグリーンビジネスから逃げ始めているのに、その動きが日本に伝わっていません。日本の金融機関は、自社にとって利益率が高いからいまだにESG投資を勧めている状態。このままでは日本が“グリーンのババ”を引かされてしまいます」

 本書は警鐘を鳴らすにとどまらない。石炭火力発電の復活、原発の再稼働などが処方箋だと説く。では、あなたの意見は? 考えを深めさせる一冊。 (徳間書店 1760円)

▽渡邉哲也(わたなべ・てつや) 1969年生まれ。作家・経済評論家。日本大学法学部経営法学科卒。貿易会社勤務を経て独立。「お金の学校」「世界と日本経済大予測2023-24」「経済封鎖される中国 アジアの盟主になる日本」など著書多数。

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