「ザイム真理教」森永卓郎氏
「ザイム真理教」森永卓郎著
酒税改正に伴った第3のビールとワインの増税、そしてインボイス制度の導入が10月から始まる。さらに2024年度からは新しく森林環境税が住民税に上乗せされ、増税の波は果てしなく押し寄せる。
「2022年の国民負担率(税、社会保障負担が国民所得に占める割合)は47.5%です。4公6民で『百姓どもは生きぬよう死なぬように』の江戸時代よりも重税社会なんですよ。また、幕府財政の悪化で5公5民となったときには農民たちは一揆を起こしましたが、片や現代人はどうか。2021年の世論調査で『一時的にでも消費税を引き下げる方がよい』と答えた人はわずか35%でした。大半の人が増税を受け入れてしまっているのは、『ザイム真理教』にすっかり洗脳されてしまっているからなんです」
「ザイム真理教」とはネット世界で頻繁に使われている用語で、財政健全化を盾に巧妙なワナを仕掛ける財務省をからかった言葉。そのザイム真理教がどう国民生活を破壊してきたかを解説するとともに「無限増税地獄」からの脱出への道を指し示すのが本書だ。
「テレビや新聞でよく聞く、財政均衡と緊縮財政の思想こそが『ザイム真理教』の教義なんです。『日本の借金は世界最大水準』と言いますが、国の借金の3分の2は資産にできるので実際には問題ありません。また、『国債発行はインフレを招く』もウソ。年間約80兆円の国債を増やしたアベノミクスが証明したように経済危機を招くことはありません。財務省はこのような誤った情報を流し、『このままでは未来が危ない』と脅して、国民の所得を吸い取っているんです」
本書では、宗教と「カルト」の相違を論理的に定義した上で、「財務省は反社会的なカルト」とまで著者は言い切る。
「教団幹部の立場である国家公務員は、民間平均の5割以上年収が高い上に、定年後ですら天下り先が用意されて甘い蜜をすすっていることにもカルト性を感じます。政府の財政政策を信じていない人からも徴税をするわけですから、カルトよりも悪質かもしれません。特に消費税については、収入が少ない人ほどその大部分を生活のために消費せざるを得ないので、庶民が苦しむ仕組みになっているんです」
難解な税制や経済理論も易しく解説しながら教義を打ち砕く本書だが、洗脳に気づいた読者には何ができるのだろうか。
「江戸時代の農民が『逃散』したように、逃げるしかないと私は真剣に考えているんです。そのひとつが家賃や物価が高い都市部から地方への脱出です。実際に私はコロナ禍に埼玉県所沢市のトカイナカに引っ越して、自給自足の生活をしています。60坪の畑を借りてキュウリや芋などの野菜と果物25種類を栽培して食費を抑え、太陽光で電気を賄っている。近所のおじいさんとは物々交換をしているので、所得税も消費税もかかりません。仕事や家庭などの事情で『逃散』できない人は家賃の安い公営住宅に引っ越して支出を抑えながら準備をするのがいいのではないでしょうか」
(フォレスト出版 1540円)
▽森永卓郎(もりなが・たくろう) 1957年生まれ。東京都出身。東京大学経済学部卒業。経済アナリスト、独協大学経済学部教授。日本専売公社、経済企画庁、UFJ総合研究所などを経て現職。主な著書に「年収300万円時代を生き抜く経済学」「長生き地獄にならないための老後のお金大全」など。