「サイレント国土買収」平野秀樹氏
「サイレント国土買収」平野秀樹著
「外資の国土買収の研究を15年続けてきて、今まで4冊の本を書いてきました。5冊目となる本書はこれまでの集大成です。日本の国土がどのように外資に買い進まれてきたのか、そのプロセスを歴史の一ページとして後世の人々のためにできるだけ正確に書き残したかった」と著者。
林野庁勤務時代に外資による目的不明の山林買収に気づいたことを契機に、巧妙に正体を隠した買収が多くあることを知り、不審に思うようになったという。本書では、特に再生エネルギーを名目とした土地買収と、重要インフラや要衝付近が買収されている事例を紹介。国民が気づかない間に、まさにサイレントな状態で国土が失われていく現状に、強く警鐘を鳴らす。
たとえば、山林を切り開いてパネルを敷き詰めたメガソーラー。その敷地は登記簿上では日本人の所有地とされ、統計では外資の所有と数えられないケースも多い。
しかし所有者を曖昧にすることが可能な合同会社が表に置かれて、本体の外資がカムフラージュされていることは珍しくない。
「毎月支払う電気代に含まれている再エネ促進賦課金は、こうした外資に流れ込んでいます。深刻なのは、パネルが寿命を迎えたときに、表向きの会社が計画倒産すると、産業廃棄物となったパネルが放置される恐れがあること。残された産廃のために、地方弱小自治体が泣き寝入りする羽目になりかねません」
事業者の途中譲渡で自治体との約束が反故に
再生エネルギーの導入という名目なら、国も自治体も外資参入に歓迎ムードだ。しかし、事業者と地元が開発に関して約束を取り交わしたものの、数カ月後に事業者が別会社に譲渡された結果、約束が反故にされた例が福島県で実際に起きている。
「この15年、特に中国人による買収が段階的に行われてきました。第1段階が水源地の買収、第2段階が再生エネルギー、第3段階が農地や港湾周辺といった重要インフラの買収です。残念ながら、第2段階までは押さえられてしまい、第3段階に入ってしまった。今気にしているのは、外資による農地占用です。日本人のために食料生産できるはずの農地が、外国人のための食料生産の場になっていく。茨城県では外資による耕作放棄地の農地買収が広域にわたって進められていますが、今後全国的に広がっていくことを危惧しています」
エネルギーインフラや農地の外資化は、いざというときの国防上の弱点になりうる。本書では、ハワイ王国が外国人に土地購入を許可する法律を作った結果、法律制定から48年目に米国に併合された例も紹介。こうした悲劇を防ぐため、諸外国では外国人の土地取得への規制や制限を行っているのだが、なぜか日本は本格的な法規制がなされる動きもない。
「このままいくと10年後、20年後日本がどうなるのか。問題点に気付き、諦めずに働きかければ政治家を動かすこともできるはずです。子どもや孫世代のためにも、気付かぬうちに進行している国土買収の事実をまずは大人世代が知る必要があるのではないでしょうか」 (KADOKAWA 1056円)
▽平野秀樹(ひらの・ひでき) 1954年兵庫県生まれ。姫路大学特任教授。九州大学卒業後、農林水産省入省。環境省環境影響評価課長、農水省中部森林管理局長、東京財団上席研究員などを歴任。著書に「奪われる日本の森」「日本、買います」「領土消失」「日本はすでに侵略されている」などがある。