意外性が面白い!文庫で読む対談本特集

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「尾崎世界観対談集」尾崎世界観著

 作者の世界観が詰まったエッセーやコラムも魅力だが、対談は相手によって本音が引き出されたり、ときには新たな側面の発見があって面白い。今週は「寂しさ」「創作」などテーマに沿って語り合った対談本をご紹介。2人のおしゃべりに耳を澄ませてみよう。



「尾崎世界観対談集」尾崎世界観著

 クリープハイプのボーカルで作家の著者がアイドルやミュージシャン、詩人など敬愛する作り手と創作について語り合う。

 小説家としても活動するアイドルの加藤シゲアキは、デビュー当時、自分はグループの足を引っ張っているとの自覚があり、劣等感があったという。そんな中、メンバー構成が大胆に変わることになり、仕事もあまりなかった加藤は自分で何かの形を残したいと、小説「ピンクとグレー」を書くことにした。

 同じく作家の顔を持つ尾崎は病気でうまく声が出せなかった時期と「祐介」の執筆が重なり、週末はフェス出演、平日は「祐介」を書く生活をしていた。ボーカリストとしての苦悩を、書くという苦悩で麻痺させているようだったという。

 書く経験を重ねた今、新しい悩みは「効率がよくなってしまうところ」と加藤。尾崎は「歌詞のような小説になってしまうこと」と書き続けることの難しさを率直に吐露する。

(朝日新聞出版 1012円)

「さびしさについて」植本一子、滝口悠生著

「さびしさについて」植本一子、滝口悠生著

「物心ついた頃にさびしさを植えつけられたと思う」とつづるのは植本だ。原風景は実家で、家の中で誰とも心が通じ合わないさびしさを感じていた。あるとき母親に対して、この人に自分の本心を話すのはやめようと決心する瞬間があった。だから東京という街に、私は人を求めて出てきたのだなと思っている。夫と死別し、子ども2人と現在のパートナーと過ごす植本は自分のスタジオでは「家族写真」という言葉はなるべく使わないようにしている。

 滝口は植本からの手紙を受け、以前からリアリティーのあるかたちで「さびしさ」が想像できずにいると告白。さびしいという感情自体はあるが、長くとどまることがないようなのだ。僕が束の間感じる「さびしさ」は僕が「かなしみ」と呼ぶ感情に吸収されているのかもしれない。

 近所に住む写真家と作家が、社会や子どものことなど親しく交わした10の往復書簡。「さびしさ」から「かなしみ」、娘のこと、散歩のことが地続きに紡がれていく。

(筑摩書房 902円)

「世間とズレちゃうのはしょうがない」伊集院光、養老孟司著

「世間とズレちゃうのはしょうがない」伊集院光、養老孟司著

 伊集院は子どもの頃から世間とのズレを恐れていたが、理由は体が大きいことでいじめの対象になるのではと思っていたからだ。

 一方の養老は片親、愛想がない、昆虫好きでそもそも「世間とズレ」ていることは分かっていた。伊集院が世間の中に踏みとどまりながらはみ出る境界線の上を歩いているのに対し、養老はしょうがないと開き直り「どこから世間に入れてもらえるか」という感覚でいると答える。

 また伊集院が、解剖学者である養老に「幽霊はいるか」と尋ねると、「いる」。いなければ言葉にならないから、頭の中にいることは間違いない。「『幽霊を見た』と転んで骨折すると『幽霊は現実』となる。つまり骨折の原因は幽霊となる」と。その発想に驚く伊集院に「世間と折り合わないから考えるだけ」と養老はあっさり。

「世間からズレる」をテーマに不倫、戦争経験、AIなどについて自由に語り合う。

(PHP研究所 880円)

「網野善彦 対談セレクション1」山本幸司編

「網野善彦 対談セレクション1」山本幸司編

 さまざまな古文書を読んできた網野は、文字の中でひらがなとカタカナの役割についてずっと気になっていた。

 調べると、どうもカタカナは口語を表現するようで、鎌倉時代までだと神仏に願いごとをする文書にはカタカナが多く出てくる。一方、ひらがなは最初から書く文字として使われている。

 司馬遼太郎に「源氏物語」はひらがなで筆写され、「太平記」はカタカナ表記なのはなぜかと問われ、網野はこう答えた。

 本来ひらがなだったものが僧侶によってカタカナに書き換えられている。「太平記」も長く寺が持っていて筆写した結果ではないかと。

 司馬は軍隊時代もカタカナ文書だったといい、「軍隊の文章は簡潔で解釈の動かない文章であるべき」として出てきたもので「軍隊はカタカナ世界」と述べる。

 歴史家の故・網野善彦と、西洋史や文化人類学など多彩な分野の第一人者と交わした対談の記録。

(岩波書店 1573円)

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