日曜は「日本ダービー」──読んで楽しむ競馬の本特集
「ボス猫メトとメイショウドトウ」佐々木祥恵著
あさっては競馬ファン待望の「日本ダービー」。3歳馬の頂点を目指し、18頭(出走予定)のサラブレッドがターフを駆け抜ける。ということで今週は競走馬や引退競走馬を主人公にした本を特集した。
◇
「ボス猫メトとメイショウドトウ」佐々木祥恵著
2020年夏、著者とパートナーの元JRA厩務員の川越靖幸氏は、北海道で引退馬の牧場「ノーザンレイク」を開場。開場から3日後、茶白でカギ尻尾のオス猫が現れ、牧場に居着いてしまう。
メトと名付けたその猫は、人懐こく、馬たちにもすぐに馴染み、いつしか牧場のムードメーカーになっていたという。
翌年にはゲーム「ウマ娘」のモチーフにもなっているメイショウドトウとタイキシャトルが牧場に加わり、ドトウの背中に乗ったメトの動画がバズって、SNSで2匹の人気は不動のものに。そんな牧場のボス猫メトと引退馬たちの日々を追ったフォトエッセー。
お互いの鼻先を突き合わせ、会話を交わしているかのようなメトとドトウをはじめ、厩舎内を見回ったり、馬の命日に設けられた献花台に寄り添うメトなど。
メトと馬たちの日々の写真に加え、引退馬牧場の日常や、各馬の物語まで。動物ファン、競馬ファンにお薦めの一冊。 (辰巳出版 1650円)
「フェスタ」馳星周著
「フェスタ」馳星周著
北海道で牧場を営む三上は、世界最高峰といわれる凱旋門賞を制覇する馬を育てるのが夢だ。そのためには日本の在来牝系が持つスタミナとパワーにスピードを持つ父親の血を掛け合わせるのがベストだと考え、ステイゴールドに目をつける。しかし、借金してステイゴールドを牧場の牝馬につけ続けるが、産駒はどの馬も父親譲りの気性難を抱え、結果を出せない。ステイゴールドの死後、三上はその血を引く2010年凱旋門賞2着馬のナカヤマフェスタに夢をつなぐ。フェスタも気性が荒く関係者をてこずらせた馬だった。
家族の反対を押し切りフェスタの子を育ててきた三上の牧場で一頭の子馬が生まれる。馬主の小森に買われた子馬は、神の座す山「カムナビ」と名付けられ調教師の児玉のもとで競走馬としての訓練を受ける。しかし、カムナビも気性が荒く、デビュー直前、厩務員の小田島にケガをさせてしまう。多くの関係者の夢を乗せ、カムナビがロンシャン競馬場を駆け抜けるまでを描く感動の競馬小説。 (集英社 2090円)
「さよなら凱旋門」蜂須賀敬明著
「さよなら凱旋門」蜂須賀敬明著
1916年、アリーはロンドン郊外の伯爵家の屋敷で厩務員として働いていた。馬のことはすべてオスマン帝国から馬とともに伯爵家に売られた亡母に教わった。その日、アリーが世話をしていたスモーキーがダービーを制覇。しかし、その勝利に激怒した伯爵家の次男がスモーキーの厩舎に火を放つ。
アリーが焼け跡で拾った蹄鉄がしゃべりだす。蹄鉄は、2005年の凱旋門賞で勝利目前に落雷で落馬した日本人騎手の晩夏と名乗る。未来から転生したらしい。その夜、伯爵家の長女は傍若無人な次男から守るためアメリカの馬商に売却した愛馬ブリーズイングラスの世話役として、アリーの渡米の手はずも整えていた。晩夏は、アリーが託された馬が世界の競馬史において欠かすことのできないブリーズイングラスだと知り驚き、彼の相棒としてアメリカまでついていくことに。
SFと歴史とミステリーを融合させ、名馬とそれを生み出すホースマンを描くサラブレッド小説。 (文藝春秋 2200円)
「セカンドキャリア」片野ゆか著
「セカンドキャリア」片野ゆか著
競馬業界では、毎年約7000頭のサラブレッドが生産される一方で、約6000頭が引退する。引退競走馬は、乗馬クラブや観光牧場などで第二の「馬生」を送るが、実はその多くは「行方不明」になっているという。その事実に衝撃を受けた著者が、引退競走馬の現状を取材したルポルタージュ。
まずは、複数の引退競走馬が適性に応じてセカンドキャリアを送っている施設「TCCセラピーパーク」(滋賀県)を訪問。
そこで出合った今はセラピーホースとして活躍するラッキーハンターの物語をはじめ、引退競走馬をセカンドキャリアにつなげるためのリトレーニングの達人で、馬語が分かるといわれている宮田氏、引退競走馬に飼料を与え食肉用の馬として出荷している肥育場から馬を引き取りセカンドキャリアにつなげるプロジェクトを進める地方競馬の馬主・林氏ら。
馬を愛する人々の奮闘によって変わりつつある引退競走馬の最新事情を紹介。 (集英社 2200円)