読む薬!体を考える本特集
「糖尿病の哲学」杉田俊介著
年齢を重ねるにつれて、体に違和感を覚えることは増えてくる。なんとなく疲れがとれなかったり、気になるところがあったりすることもあるだろう。今回は、体についてさまざまな視点から切り込んだ4冊をご紹介する。
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「糖尿病の哲学」杉田俊介著
2021年の秋ごろから慢性的な不調を感じるようになった著者は、22年に入ると体が動かなくなり、呼吸困難やひどいめまいの症状に襲われた。検査を受けたところ、血糖値がかなり高いことが発覚し、本格的な糖尿病治療が始まる。
フリーの物書きとして、そんな治療の日々に浮かぶ考えをセルフケアのような気持ちで書き留め始める。糖尿病専門病院での検査や食についての思い、合併症の網膜症への恐怖などに加えて、日課となった散歩での思索や、日々の支えになった本についてもつづっていく。
吉本隆明の「最後の親鸞」、ソローの「森の生活」、岡倉天心の「茶の本」など、多くの書物に触発されながら、著者は病と共にある生活でどう生きていくかに思いを巡らす。
病をなだめる日々から見いだす言葉のひとつひとつが切実だ。
(作品社 2640円)
「ファック・キャンサー」メリー・エリザベス・ウィリアムズ著 片瀬ケイ訳、中村泰大医療監修
「ファック・キャンサー」メリー・エリザベス・ウィリアムズ著 片瀬ケイ訳、中村泰大医療監修
幼い子どもを育てながらNYでライターとして働いていた著者は、2010年夏に頭に小さなカサブタがあることに気づく。軽い気持ちで皮膚科を受診したところ、皮膚がんが発覚。一刻も早い手術を促され、昨日までの日常が一変してしまった。離婚から年月を経て良い関係が築けるようになった元夫の支えを受けながら、がん治療に臨むのだが……。
本書は、40代半ばに悪性黒色腫の診断を受けた米国女性による、がん体験にまつわるドキュメンタリー。著者は手術で一度すべてのがんを切除したが、再発してステージ4に進行。希望をつないで免疫療法の治験に参加し、奇跡的にがんが消滅した。
突如がん治療の世界に放り込まれる患者のリアルな日常とその本音、さらに著者が体験したがん治療の最前線が率直な筆致で描かれている。
(筑摩書房 2530円)
「あなたを疲れから救う休養学」片野秀樹著
「あなたを疲れから救う休養学」片野秀樹著
いつも体が重かったり、寝ても疲れがとれなかったり。そんな症状は、病気ではないが健康でもない未病と定義され、蓄積すれば病気へと移行しかねない。ここで重要なのが休養だ。本書は、休養を20年研究した著者による、効果のある休み方の書だ。
多くの人は「活動→疲労→休養」のサイクルで動くが、本来は疲労する前に休養をとるべきだと著者はいう。携帯電話の充電がゼロになってから充電するのではなく、半分程度消費した時点でフル充電して活動に向かうイメージだ。
しかし、日本では、疲労をコーヒーやエナジードリンクなどでマスキングして感じなくさせながらギリギリまで働き、そこで初めて半分程度充電して、疲れたまま働く人が大半だ。疲れを警告だと受け止め、攻めの休養に転じる必要性を説いている。
(東洋経済新報社 1650円)
「奇跡の薬16の物語」キース・ベロニーズ著 渡辺正訳
「奇跡の薬16の物語」キース・ベロニーズ著 渡辺正訳
元祖・抗生物質のペニシリン、解熱鎮痛剤のアスピリン、異例の速さで開発された新型コロナワクチンなど、人類の歴史を変えた新薬には、思いがけない物語がある。本書は、これら16種の薬の開発から実用に至るまでの紆余曲折の物語だ。
たとえば、勃起不全の男性を救ったバイアグラ。不能改善のため、古代の男はヤギの性器をお守りにし、その後根元にリングをはめてみたり、インプラント手術や海綿体注入療法を導入したりと長年努力を重ねるも画期的な方法には至らなかった。
だが、狭心症の薬として登場したバイアグラの治験中に、治験は失敗だったにもかかわらず薬を返却しない人が続出。血管拡張作用が心臓ではなくアレに働くことがわかり、電光石火の勢いで商品化された。
知恵と執念と偶然が生み出した薬の歴史が興味深い。
(化学同人 2860円)