GWにおすすめ 文庫で読む伝奇小説本特集
「友喰い」大塚已愛著
明日からいよいよゴールデンウイークに突入。休み中に読む本はもうお決まりだろうか。今週は、長い休みにぴったりの、仕事も日常の雑事も忘れ、別世界へと連れて行ってくれる伝奇小説を特集する。
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「友喰い」大塚已愛著
嘉永4(1851)年のその日、非番で家にいた甲斐国の山廻役人・坂下は上役の林奉行・小野寺に呼び出される。訪ねると、同僚の加当を迎えに行ってほしいという。山廻役人の仕事は、表向きは無断伐採などを取り締まり、山林の治安を守ることだが、本業は富士の樹海にあいた穴から化け物が「湧かない」ように見張ることだ。
3カ月ほど前から、身延近隣の山で旅人や猟師らが次々と消える事件があり、加当に山寺の住職を確保してくるように命じたという。その加当が3日経っても戻ってこないらしい。坂下が当の山寺まで行き、加当の足跡をたどると、本堂の厨に大量の人骨が積み上がっていた。さらに土蔵に足を踏み入れると、手足を切断された加当と、その肉をむさぼり喰らう住職がいた。坂下に気づいた住職が襲いかかってくる。
化け物に喰われる加当と、化け物を好んで喰らう坂下のもののけ退治を描く伝奇エンタメ。
(新潮社 737円)
「日本霊異記・発心集」伊藤比呂美訳
「日本霊異記・発心集」伊藤比呂美訳
欽明天皇の時代、妻になる女を探していた美濃・大野の郡の男は、荒れ野できれいな女に出会う。女が気を引くようなそぶりで男を見たので、「おれの妻にならないか」と言うと女が応じた。
一緒に住み始めた女は、やがて男の子を産む。同じころ、飼っていた犬も子犬を産んだ。子犬が妻を見るたびに吠えかかるので、妻は夫に殺してと頼むがどんなに言われても夫は犬を殺さなかった。
ある日、犬に追われて逃げ惑った妻が獣に変わり、動けなくなる。それを見て夫は「おれたちは子をなした仲だよ。おれはおまえを忘れない。いつでも共寝しにこい」と言った。妻だった獣はその言葉通りにやってきて、夫と寝た。それでその獣のことを「来ツ寝」(きつね)と呼ぶようになったという。(「狐女房の縁」)
この話が収められた平安時代初期に薬師寺の僧・景戒が編んだ「日本霊異記」と、鎌倉時代初期に鴨長明が編んだ「発心集」。2つの仏教説話から厳選した現代語訳集。
(河出書房新社 880円)
「令和じゃ妖怪は生きづらい」田丸雅智著
「令和じゃ妖怪は生きづらい」田丸雅智著
「おれ」は、社内で評価が高い同僚の三好に嫉妬。家でやけ酒をあおっていると、背後から赤ん坊の泣き声がする。ソファの後ろを見ると、小さな影が転がっていた。思わず、抱き上げて顔をのぞき込むと、腕の中にいたのは赤ん坊ではなく老人だった。さらに老人は、すばやくおれの背中にとりつき、その重みで立っていられない。
「子泣きじじい」だと名乗ったその老人は、「おぬしの役に立ってやろうと思って」わざわざ現れたと語る。どうやら三好にとりついてくれるらしい。それも背中にとりついてただ重くなるだけでなく、もっと現代的な方法で。(「重くなる」)
そのほか、子どもの能力を伸ばすために立ちはだかる壁になってくれるとうたう「ぬりかべ」や、先輩に連れて行ってもらったレストランで食べた「N肉」のとりこになってしまう男など。
どこかで聞いたことがある妖怪たちが現代社会に現れる12のショートストーリー集。
(光文社 858円)
「お梅は呪いたい」藤崎翔著
「お梅は呪いたい」藤崎翔著
人気ユーチューバーを目指す悠斗だが、現在のチャンネル登録者数はたった34人。
ある日、悠斗は投稿動画のネタにしようと、亡き大伯母が住んでいた古民家の解体中に見つかった古い人形を自室に持ち帰る。その人形は、実は戦国時代にとある大名一族を滅亡に追い込んだ呪いの人形お梅だった。
500年ぶりに木箱から出されたお梅には、「すまほ」や「てれび」など目に入るものすべてが謎だらけ。でも焦ることはない。まずは悠斗を呪い殺し、そしてまた別の人間の手に渡り、そいつも呪い殺す。それを繰り返し「呪いの人形お梅」の名を轟かせ、人間を震撼させてやるのだ。そう考えていたお梅だが、悠斗の就寝中、部屋を探索して歩く姿を撮影され、アップされてしまう。(「ゆふちゅふばあを呪いたい」)
失恋女やひきこもり男など、次々と人の手に渡りながら呪い殺そうとすればするほど、なぜか彼らを幸せにしてしまうお梅を主人公にした連作集。
(祥伝社 792円)