楽しみ方はあなた次第 本棚にまつわる本特集
「本屋のミライとカタチ」北田博充編著
ケータイで読むのではなく、紙に印刷された本を読む人は依然としている。崇高なものも低俗なものも詰まった書店の本棚の前に立つのは、至福の時間なのだ。そんな人を誘惑する独自の本棚づくりにこだわる人びとを紹介しよう。
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「本屋のミライとカタチ」北田博充編著
薬剤師の瀬迫貴士は広島と大阪の調剤薬局を父から引き継いだ。2020年に豊中市に開いた店は、待合スペースに新刊書を並べた本棚を置いて、本屋の機能を兼ねている。
瀬迫は国語が苦手で、本格的に本を読み始めたのは20代になってからだった。きっかけは「世の中の流行や情報をキャッチするために週に1度本屋に通うこと」を推奨する本を読んだことだ。後輩と「1カ月100冊読書」に取り組んで、本屋をつくりたいと思い、新たな調剤薬局を開くとき、いっそのこと薬局内で本を売ろう、と。
だが、薬局は医療機関なので、「これを食べたらがんが治る!」といった真偽不明の医療本を置くのはまずい。
ほかに、生徒に本屋で本を選ばせて「おみくじ読み」をさせる国語教師など、本屋をめぐるユニークな活動を紹介する。
(PHP研究所 1870円)
「本屋のない人生なんて」三宅玲子著
「本屋のない人生なんて」三宅玲子著
北海道の北西部にある留萌は人口が減少し、現在は約2万人。かつて5軒あった書店は次々に閉店し、2010年、最後の店が倒産した。
留萌の振興局に出向している北海道庁職員の渡辺稔之は、子どもたちが本を選ぶ楽しみがなくなることを気にかけていた。局長に話すと書店の誘致プロジェクトの特命が下る。全国展開している書店にアタックしたが断られ、脈のありそうなのは三省堂書店札幌店のみ。留萌図書館長の提案で、市民運動の形をとることに。だが、三省堂書店新規出店の内規は「人口30万人以上」だ。「三省堂書店を留萌に呼び隊」代表の武良千春は「クラブ三省堂」というポイントカードを作り、8000人の申込書を集めた。連休明け、渡辺に三省堂書店から電話が……。
ほかに熊本、鳥取などで消えていく町の書店を守った人びとを描くノンフィクション。
(光文社 2090円)
「絶景本棚3」本の雑誌編集部編
「絶景本棚3」本の雑誌編集部編
個人の本棚にはその人の性格や趣味が表れる。評論家の津野海太郎の本棚の収容力は約1万冊。執筆中のテーマの資料をまとめて机近くの本棚に移動し、終わったら空いているスペースに置く。そのため本棚のあちこちに、植草甚一、ジェローム・ロビンスといったテーマごとの本がまとまっていて、津野の興味の歴史が残っている。
出版社勤務の塚田喜幸は3LDKの自宅の各室に自作の本棚を置いていて、南アジア、アフリカ、辺境、温泉など旅に関する本を分類して並べている。メインの本棚を1軍、食器棚の上を2軍、長男の部屋を育成棚として、毎晩、酒を飲みながら1軍から2軍に本を並び替えて楽しんでいる。
ほかに、ウルトラQの怪獣のフィギュアが並ぶアンソロジスト東雅夫の本棚など、ユニークな個人の本棚を紹介する。
(本の雑誌社 2530円)
「ちょっと本屋に行ってくる。」藤田雅史著
「ちょっと本屋に行ってくる。」藤田雅史著
ある日、本屋めぐりをしようと思い立って、町の小さな本屋さんに行った。
スペースが限られているから、並べる本でその店の個性が出る。レジ近くの女性誌やティーンズ誌の反対側には女性向けの実用書が置かれることが多いが、そこにあったのは「料理」でも「手芸」でもなく「ミリタリー」だった。左側のかわいらしいパステル色と、右側の迷彩グリーンや銃器のガンメタリックの色彩のコントラストに目まいがした。「ミリタリー」のムックや雑誌のバックナンバーは棚からはみ出すくらい充実していて、執念ともいうべきこだわりが感じられた。
本屋のいいところは店の人が寡黙なことで、「今日は団鬼六をお探しですか」なんて声をかけられたら、もうその本屋には入れない。(「本屋さんめぐりDAY」)
町の本屋めぐりのエッセー。
(issuance 1760円)