KAAT「華氏451度」 無機質な現代の日本社会へ警鐘を鳴らす
知性の劣化は、真実より耳あたりのいいウソがもてはやされるポスト・トゥルースの時代を呼び起こした。
舞台では密告が奨励され市民が相互監視する。「もはや本を焼かなくても大衆は自発的に読書をやめている」というセリフがあるが、それはネットで悪意がばらまかれ、同調圧力と忖度が横行し、放送規制しなくても報道機関が政権におもねって自主規制している日本そのものではないか。
3方から観客を威圧するかのようにそびえる巨大な書架の舞台美術。知の象徴であると同時に消滅する哀しみを内在している。それゆえ、プロジェクションマッピング(CG)で本棚が燃え上がるシーンは恐ろしく、そしてはかなく美しい。
役者が1人で数役を演じるスピーディーでスタイリッシュな演出は白井晃の真骨頂。無機質な暗黒社会とその先にある希望を的確に表現していた。
上演台本は長塚圭史。14日までKAAT(神奈川芸術劇場)。
★★★★