エロスとタナトス…三島文学に夢幻能で迫る「豊饒の海」
大胆極まりない企画だ。原作は三島由紀夫の遺作「豊饒の海」。「春の雪」「奔馬」「暁の寺」「天人五衰」の4部作からなる大河小説だ。それを2時間45分の舞台にまとめる試みなのだから、無謀ともいえる。しかし、その果敢な挑戦が奏功し三島美学に迫る見事な舞台となった。
脚本は長田育恵。もともと評伝劇を得意とする長田だが、この作品を通して三島の評伝を描いたともいえる。
物語の軸となるのは驕慢な貴族の美青年・松枝清顕(東出昌大)の輪廻転生。彼は宮家と婚約を交わした華族令嬢・綾倉聡子(初音映莉子)を寝取るという禁忌を犯し、自滅する。彼が残した「今、夢を見ていた。又、会うぜ。きっと会う。滝の下で」という言葉を信じ、彼の転生を追い求め、翻弄され続けるのが親友・本多繁邦。明治末から1975年までおよそ60年間にわたる彼の数奇な運命が展開する。
清顕の「夢」は腐敗した政財界へのテロを決行しようとする右翼青年・飯沼勲(宮沢氷魚)、官能的なタイの王女ジン・ジャン(田中美甫)、そして悪魔的な少年・安永透(上杉柊平)へと時空を超えて転生していく。