KAAT「華氏451度」 無機質な現代の日本社会へ警鐘を鳴らす
原作はSF小説の巨匠、レイ・ブラッドベリが1953年に発表した同名小説。本の所持や読書が禁じられた近未来社会を描いたもので、タイトルは紙が燃え始める温度(華氏451度=セ氏約233度)を意味している。
主人公は「ファイアマン」と呼ばれる治安部隊の隊員モンターグ(吉沢悠)。本の所持が発見された場合は急行し本を焼却、所有者を逮捕するのが役目。
冷徹な隊長ビーティ(吹越満)の下で模範的な隊員だった彼はある日、謎めいた少女クラリス(美波)と出会い、押収した「本」を初めて読んだことで焚書に疑問を持ち始める。モンターグの異心に気づいた妻の密告によって彼は追われる身となる。執拗なロボット犬の追跡をかわしてたどり着いた所は……。
ブラッドベリ自身は「作品のテーマは国家の検閲ではなくテレビによる文化の破壊である」と述懐している。50年代はラジオ・テレビが登場した時期。手軽で受動的なメディアの登場に作家が危機感を持ったのは当然か。しかし、それは今や極点まで達した。
学生の読書率は低下し、スマホが図書館代わりになってしまった。