中村屋次男と名門・成駒屋長男 背負っているものが違う?
今月の歌舞伎座は「十八世中村勘三郎七回忌追善」。その次男の七之助が夜の部「助六曲輪初花桜」で大役、揚巻に抜擢された。
戦後、歌舞伎座で揚巻を演じた女形は物故者では、六代目歌右衛門、七代目梅幸、七代目芝翫、四代目雀右衛門、現役の役者では藤十郎(扇雀時代)、玉三郎、菊五郎、福助、雀右衛門しかいない。菊之助は海老蔵の襲名のときに地方の劇場で演じただけだ。
七之助はこの名女形たちの系譜に加わったことになる。揚巻は、何よりも、吉原随一の傾城としての存在感が重要だが、残念ながら七之助にはそれが弱い。どこか遠慮している。比べては気の毒だが、玉三郎が花道に出た時に、客席にじわっと広がるどよめきやため息といったものがなかった。「初役としてはよくやった」というレベルである。
むしろ、揚巻の妹分である白玉を演じた児太郎のほうが、役を生きている。児太郎の家、歌右衛門家こそが五代目以降、揚巻を演じてきた家で、当然、彼もいつかは揚巻をやると心に秘めているはずだ。悠然とした佇まいのなかに、冷めた炎が感じられ、七之助よりも存在感が際立つ瞬間があった。名門・成駒屋の長男と、中村屋の次男とでは背負っているものが違うと感じさせる。