「量」が絶対的担保として表現者の「質」の評価となった時代への挽歌
日本初のコロナ感染者が確認されたのは2020年1月16日。坪内祐三はその3日前に61歳で逝った。2002(平成14)年から16年間、週刊SPA!で「文壇アウトローズの世相放談 これでいいのだ!」を一緒に担当した坪内さんとの関係性を著者は述懐する。
「保守論客で仲がいいとみられていたけど、実は多くの点で反りが悪かった。ただ二人とも『保守とは横丁の蕎麦屋を守ることである』という福田恆存の言葉を信条としていた」
そうか、対談タイトル自体が保守論壇のアウトロー福田恆存へのオマージュだったのか。同時期にSPA!で連載していた自分はちいさな感傷をおぼえた。
本の帯にもあるように、福田和也は「美食と痛飲」のイメージを背負ってきた。だが時に夜の街で見かけることもあったぼくの目には「鯨飲馬食」と映った。無論、飲食だけではなく著作数の夥しさへの嫌悪に近い感情が前提としてあったのだが。
著者はこうも言う。「私の言う保守は政治イデオロギーではない。政治というよりは文化、文化の中でもより生活に密着した、日常茶飯事に関する文化に対して鋭敏であるということだ」と。