アビガン開発者・白木公康氏に聞く 新型コロナとの戦い方
呼吸困難が出てからでは遅すぎる
――アビガンは当初、重症者向けに投与されていました。これについてはどうお考えですか?
日本では知られていませんが、3月中旬に、中国政府が、アビガンは感染初期の患者には非常に有効だが、重症の場合は早期の患者ほど効果がないと発表したと英国のガーディアン紙が伝えています。これは予想されたことです。
アビガンは細胞内でRNAを合成させない薬ですから、感染が進みRNAに支配された細胞に体が埋め尽くされた重症者に効果が限られるのは当然です。アビガンは感染初期にこそ、より力を発揮するのです。
とはいえ、なんでもかんでもアビガンを投与しろ、と言うのではありません。発症して6日以内で肺炎症状がある人には投与を検討すべきだと考えています。
――なぜ投与は発症後6日なのですか?
アビガンを評価した中国の論文では発症後6日のケースのデータを取り上げていて、成果を出しているからです。中国・武漢のデータには発症後12日の数字がありますが、それでは遅いのは明らかです。
――アビガンを肺炎の早期の患者に投与すべき理由がほかにあれば教えてください。
もし一般的な細菌性の肺炎やそれが原因と疑われる発熱、咳、痰が出たりした場合には、見つけ次第、抗菌薬で治療をします。呼吸困難が来てから治療しようかという医師はいないと思います。私は、新型肺炎が見つかれば、効果が期待できる薬で治療を始めましょうという当たり前なことを言っているに過ぎません。
それと、今回注意したいのは新型肺炎の本質は、血液との間でガス交換を行う肺胞よりも早く肺胞の骨組みとなる間質を障害する間質性肺炎であることです。そのせいで自覚のないまま病状が進行しやすいのです。ですから呼吸困難に至らない軽症の人でも肺にダメージが残る可能性があります。それを医療者として見過ごすことはできないのです。新型肺炎だからといって特別な治療プロセスを取るのではなく、肺炎と同じような治療プロセスを採用すべきだと思います。
誤解されると困りますが、私はアビガン開発者だから「早期にアビガンを使う」、と言うわけではありません。中国の臨床試験の結果から、既存薬の中で、その効果が得られるのが感染早期の段階だから使えばよいと思っています。もちろん、希望する人にメリット、デメリットを十分説明した上ですが。そしてアビガン以上の薬が出てくれば、その時点でスイッチすればいいのではないでしょうか。
▽白木公康(しらき・きみやす)千里金蘭大学副学長兼看護学部看護学科教授、富山大学名誉教授(医学部)。大阪大学医学部卒。富山医科薬科大学医学部教授(ウイルス学)、富山大学医学部医学科教授、富山大学医学部医学科長。