かつては摘出も…がんになりにくい「脾臓」は残した方がいい
患者さんが病院で亡くなった時、病理解剖(剖検)をお願いすることがあります。
「自分が死んだら、先生から解剖を依頼されると思う。そうしたら必ず応じるように。それが先生へのせめてもの恩返しだから」
ある患者さんはご家族にそう話しておられました。
私は担当したたくさんの患者さんに対して、病理解剖をさせていただきました。
ある患者さんが亡くなり、夜中に解剖が始まりました。その日の解剖当番のM先生は、日本の病理学の権威でした。M先生が述べる言葉を私は記録していきます。
「肝臓、重さ1200グラム。表面凹凸なくスムース、肝内胆管拡張なし……」
その最中にこう話しかけられました。
「佐々木君、この患者のがんは大変激しいがんだね。どんなに激しく転移していても、普通は脾臓にはなかなか転移はしないものだよ。この方は脾臓にもたくさん転移がある」
M先生が話されたような状態は医学の教科書にも載っていません。あとで調べてみると、剖検で脾臓に転移があったことだけでも論文発表がありました。それくらいまれなことなのです。