ガイドライン改訂「マイトラクリップ」について思うこと
開胸しなくても済む低侵襲な治療で、実施する医療機関が増えてきたこともあり、今回の改訂では、薬物療法などの内科的治療でも心不全がコントロールできない場合の治療法として、マイトラクリップが選択肢に加えられたのです。
僧帽弁閉鎖不全症が重症化して心不全が悪化する前に、負担が少ない治療法を行えるようになったことで、患者さんは大きな恩恵を受けられるといえるでしょう。しかし一方で、患者さんにとって不利益になる状況を招く可能性も考えられます。
■高額な医療費が増える懸念も
ガイドラインで、薬物治療後の早い段階でマイトラクリップが選択肢として認められた。となると、これから重症化する可能性がある患者さんを多く見つければ、それだけ多くマイトラクリップを実施できるということです。すると、これまでは薬物療法をしながら聴診器を当てる程度の検診で問題なかったようなケースでも、軒並み心臓エコー検査を行って病変を見つけ出し、マイトラクリップを実施する方向に持っていく医療機関が出てくる恐れがあります。
改訂されたガイドラインではまだそこまで踏み込んではいませんが、いずれ、何か心臓にトラブルがある患者さんに対して過剰な検査を行い、「将来的に僧帽弁閉鎖不全症が悪化するリスクがあります。今の段階でマイトラクリップをやっておいた方がいいですよ」などと誘導するケースが出てくる可能性が考えられます。もしそうなれば、本来なら必要のない高額な医療費を支払う患者さんがどんどん増える事態にもなりかねません。