心臓を守るために若年世代は「心電図検査」を受けておく
冠動脈CT検査では冠動脈の構造異常がわかる
心電図検査に加え、突然、気を失ったことがあったり、運動中にAEDなどで心肺蘇生の処置を受けて助かったといった経験がある子供は、冠動脈の奇形がないかどうかを点検しておくべきです。冠動脈CT検査や造影CT検査を受ければ、冠動脈に先天的な構造異常がないかどうかがわかります。「冠動脈起始異常(冠動脈位置異常)」と呼ばれる病態です。
心臓に栄養や酸素を送っている冠動脈が本来の場所とは違うところから出ている先天性奇形で、運動や興奮による血圧上昇やすぐ隣にある肺動脈圧のわずかな上昇に伴い冠動脈が圧迫されやすくなることで、血流が急に途絶して再灌流障害を起こし、致死性の心室細動を招きます。近年の検査機器の進歩によって心臓や血管を細かくチェックできるようになったことで、注目されるようになりました。
ただ、起始異常があったとしても、15歳未満では一般的には手術はせず、経過観察となります。冠動脈が出ているところが本来とはミリ単位でほんの少しずれているだけだったり、血流に問題が起こらないような合流の仕方をしていれば、大きな問題はないといえるでしょう。
起始異常がわかった場合、まずはどれくらいまでの運動=負荷に耐えられるかの能力を示す「運動耐容能」を調べ、対象者のリミットを把握します。そのリミットが日常生活に支障を来すレベルであれば手術が検討されます。
また、起始異常があって15歳を越えてから何らかの心臓トラブルが発生した場合も、いくつか確立されている治療法の中から最適な治療を選択します。将来的に最も問題が起こりにくい方法は冠動脈を正しい位置に付け替える手術ですが、難度が高い手術なので実施している医療機関は限られるのが現状です。
近年、私がいちばんやりがいを感じている手術が起始異常に対する動脈を正しい位置に付け替えるもので、これまで何人もの患者さんに実施しています。そのほとんどは急に心肺停止となりAEDの使用で一命を取りとめたとか、気を失ったことから検査してみたら起始異常が見つかったというパターンが占めています。
起始異常のような冠動脈の構造異常は、普段は自覚症状がない人がほとんどですが、成長によって身体バランスの変化などが生じ、運動量や心臓の負荷量が増えたり冠動脈自体の硬化が起きたりすると、血圧の上昇により急に心筋への血流が途絶するため、パンクしてしまうケースがあります。いまは手術が必要ない状態でも、突然死を招く可能性があるということを知っておくことが大事です。運動中に心臓に異変を感じたり、気を失ったことがある場合には成人になって高血圧の要素が加わると日常生活の範囲内でも突然死を来す可能性があるので、きちんと検査しておくことをおすすめします。
◆本コラム書籍化第3弾「60代、70代なら知っておく 血管と心臓を守る日常」(講談社ビーシー)4月18日発売