楽天は2026年にサービス開始…「衛星との直接通信」で気になる8つの疑問
当面はショートメールどまり、高速通信は2年後?
Q.楽天が打ち出す方式とは?
Q.他社の状況はどうなのか?
「文字通り、衛星と携帯端末との間にアンテナや基地局などを介さず、衛星と携帯端末を直接つなぐ通信です。楽天は2020年に米宇宙開発ベンチャーのASTスペースモバイルと提携し、直接通信に向けた実験を重ねています」
ASTは低軌道衛星ブルーウォーカー3の打ち上げに成功し、昨年4月には楽天のほか米AT&Tなど4社と共同で市販スマホと衛星とのデータ通信&音声通話を達成している。世界初の快挙だった。
「直接通信に向けた技術開発競争は、もちろん盛んです。スペースXは今年1月に次世代衛星の打ち上げに成功しました。そのため、KDDIは24年中にスマホと衛星との直接通信を目指しています」
ソフトバンクは2段構えで開発を進める。ひとつは、翼の長さが78メートルという巨大な無人航空機に基地局システムを載せて高度20キロ前後の成層圏に電波を発信させながら数カ月飛ばし続け、地上の半径100キロ圏内をカバーする。もうひとつは、KDDIや楽天と同じような低軌道衛星を用いる技術で、英宇宙開発企業ワンウェブと組む。
Q.実現すればすぐにデータ通信や音声通話ができるのか?
「将来的には、データ通信と音声通話が可能になります。当面はそこまでいかず、ショートメールなどで、KDDIが年内の実現を目指しているのもそこまでです」
世界初の快挙を成し遂げた楽天のダウンロード速度は14メガbps。4Gビデオ通話と5G接続に成功したため、音声やショートメールなどの基本サービスはもちろん、ネット検索やファイルのダウンロード、SNSの使用、ビデオのストリーミングなども市販のスマホで可能になるというが、楽天が直接通信によるブロードバンド通信を目指すのは2年後だ。
ショートメールに近い機能については、iPhone14シリーズから海外で使用されている。衛星経由の緊急SOS機能がそれ。北米と欧州で導入されているものの、日本は未定だ。
Q.技術力の違いは、やっぱり資金力?
「衛星電話の主力となっている低軌道衛星との通信を安定させるには、軌道上にいかに多くの衛星を飛ばせるかがカギになっています。スペースXの衛星数は5000機前後ですが、日本の低軌道衛星の先駆けであるイリジウムは66機ほど。2ケタ違うのです」
スペースXを追うアマゾンは、子会社の宇宙開発企業プロジェクトカイパーが昨年10月、低軌道衛星の打ち上げに成功。今後6年で3200機を飛ばす方針だ。ドコモやスカパーなどはプロジェクトカイパーと協業することを発表している。一方、ソフトバンクが提携する英ワンウェブの低軌道衛星は、600基以上という。両グループともに今後、急ピッチで衛星通信網の整備を進めていく。
楽天と提携するASTは今年1月、グーグルやAT&Tから約230億円の出資を受けている。現在、試験機のみの低軌道衛星は将来的に243機に増やす構想とされている。
Q.現在ある基地局との兼ね合いは?
「衛星と携帯端末との直接通信が実現しても、ふだんは地上の基地局を経由する通信の方が効率的です。しかし、日本は自然災害が毎年のように起きている上、山間部や島しょ部も多く、復旧に時間がかかります。その状況で、衛星通信を災害時に利用するのは、能登半島地震で示されたように利用価値が大きい。そもそも直接通信が可能になっても、衛星網のキャパシティーの問題からそれぞれのキャリアーと契約するすべての人が常時接続するのは、設備面で難しいはず。それだけに日本において直接通信は、災害時や緊急時などに限定されるのではないでしょうか」
基地局数でほかの3社に遅れる楽天の場合、地上の携帯電話網の面積カバー率は7割ほど。ASTとの提携で100%に引き上げる戦略だが、すべての接続を直接通信に置き換えるのではなく、地上の基地局との接続が難しいエリアで補完的に直接通信で接続するとみられている。
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もはや通信が途絶えた環境は考えにくい。それだけに、各社とも夢の通信技術を“一本足打法”で頼るのではなく、選択肢のひとつという位置づけで通信網の維持、強化に備えてしのぎを削っているのだという。