谷口源太郎氏が喝破「パラリンピックも勝利至上主義になり不正が横行している」
東京五輪の余韻も冷めやらぬ中、24日から9月5日まで行われるパラリンピック。しかし、「商業主義」「勝利至上主義」「国威発揚」がまかり通っているのは、五輪とまったく変わらないという。五輪に詳しいスポーツジャーナリストの谷口源太郎氏が、五輪とパラリンピックの抱える問題を喝破する。
【写真】この記事の関連写真を見る(20枚)
◇ ◇ ◇
――五輪の商業主義やIOC(国際オリンピック委員会)の腐敗などは以前から指摘されてきました。さらに問題があるのですか?
「一言で言うならば、IOCの私物化が進んでいます。オリンピックのビジネス化に舵を切ったのが、今は故人となったアントニオ・サマランチ元会長。以降も商業主義の体制が続いていますが、彼は当時から布石を打ち、自分の息子であるサマランチ・ジュニアを将来のIOC会長にしようと画策していた」
――かつては副会長を務めていましたね。
「良識派だったジャック・ロゲ前会長はともかく、現職のトーマス・バッハ会長はサマランチ元会長と関係が深い。バッハ会長はかつてアディダスの弁護士を務めた過去がある。アディダスと関係が深かったサマランチ元会長が、両者を引き合わせたのです」
――バッハ会長はサマランチ家に借りがある、ということですね。
「実際、ジュニアはIOC内でも副会長などを歴任し、現在は22年冬季北京五輪の調整委員会の委員長を務めている。ちなみに東京五輪でその役職を務めていたのは、IOCの重鎮であるジョン・コーツ副会長です」
――バッハ会長の次、あるいは将来の会長候補だと。
「IOCは曲がりなりにも国際的な組織。それがまるで世襲制のような人事をすれば、その時こそIOCの息の根が止まるも同然です。果たしてそれが世界で受け入れられると思っているのでしょうか」
健常者なのに知的障害者と偽り出場
――とにかくIOCは悪いウワサが絶えない。
「バッハ会長が13年に就任した際も、『ベンツで会長になった』と言われています。これは私が元IOC委員に取材して聞いた話で、高級車のベンツを各国のオリンピック委員会に贈り、票を集めたと。ちなみにサマランチ会長の時は現ナマだったそうですが」
――完全に買収ですね。
「今年7月には32年夏季五輪の開催地をブリスベン(オーストラリア)に決めた。本来ならば時間をかけて開催地候補を綿密に調査し、五輪に耐えうる経済状況なのか市民は賛成しているのかなどを調べ上げる。そうしたプロセスをほぼ無視して11年先の開催地まで決めてしまったのです。いかにIOCの尻に火がついているか、ということです。さらにこうしたIOCの腐敗体質がパラリンピックにも影響している」
――どういうことですか。
「IOCとIPC(国際パラリンピック委員会)は別の組織です。かつてのパラリンピックの開催地は、必ずしも五輪と同じではなかった。しかし、88年ソウル五輪からIPCがIOCに同調。それでも当初は組織間の連携が薄かったが、今回の『東京五輪・パラリンピック組織委員会』という名称が示すように、今ではほぼ一体化してしまった。パラリンピックは、戦場で負傷した元兵士を育成するための仕組みが欧米各国で制度化されている。一方で、五輪同様、国威発揚のためのメダル獲得競争の舞台とされ、勝利至上主義によるドーピング問題なども横行している。そのひとつの例が、00年シドニー大会でのスペイン・バスケットボールチームの不正です」
――どのような不正だったのですか。
「代表選手12人中10人は健常者なのに、知的障害者と偽って出場させたのです。まだあります。パラリンピックは障害の度合いによって、クラスが分けられる。だから『重度の障害の方が勝てる』とばかりに、クラス分けで虚偽申告をする行為も行われているのです。そもそも、障害の度合いを線引きするのは困難。知的障害となれば、なおさらです。クラス分け自体が新たな差別につながりかねない、という問題もあります」
パラリンピックの国家間格差は五輪以上
――パラリンピックは高価な補助具の有無も問題視されています。
「通常の五輪でも公平不公平は生まれてしまう。いつでも有名メーカーのシューズを買える裕福な国と貧しい国では、条件が同じとは言えない。しかし、パラリンピックの高性能な義足、車いすなどはシューズの値段どころではない。五輪以上に資金のあるなしが結果に影響してしまう」
――選手強化に資金をつぎ込める国が有利では、五輪と変わりません。
「そもそも、IPCは障害者スポーツとは何であるかを考えているのでしょうか。リハビリの一環で行う者もいれば、気分転換やコミュニケーションの手段として行う者もいます。では、そうした障害者スポーツができる環境はどれほど整備されているのでしょうか? 特に日本の場合は悲惨です。本来、障害者スポーツを支援すべき資金や人材が、パラリンピックへの選手強化などに集中している。パラリンピックで活躍する選手が出てくれば、競技の裾野も広がるという根本的に間違った考え方をしているのです。むしろパラリンピックは障害者スポーツを壊しているのが現実なのです」
――それでもパラリンピックへの批判はあまり聞かれません。
「パラリンピックはどうしても、『ハンディを背負ってもあそこまでやれるんだ。感動だよね』ととらえられ、絶対に反対しなければならない『学校連携観戦プログラム』による小・中学生動員の根拠にもされる」
――選手に罪はないとはいえ……。
「現在、IPCは『障害者スポーツ』という名称を、『パラスポーツ』に変えてしまった。パラリンピック至上主義を徹底するためでしょう。もちろん、選手の努力そのものは否定しません。しかし、世界に約12億人いるといわれる障害者にとってのスポーツ環境づくりを最優先にすべきであって、パラリンピック至上主義は、本末転倒であり認められない」
(聞き手=阿川大/日刊ゲンダイ)
▽谷口源太郎(たにぐち・げんたろう) 1938年、鳥取県生まれ。週刊誌記者を経て85年にスポーツジャーナリストとして独立。著書に「スポーツを殺すもの」(花伝社)、「オリンピックの終わりの始まり」(コモンズ)など。