シネマの本棚
-
スペインの巨匠、ビクトル・エリセの31年ぶりの新作
映画は20世紀で終わったという説がある。映画用フィルムの登場が19世紀末。それから1世紀後にデジタル化でフィルムが淘汰され、いまでは大半の映画館がDCP(デジタル・シネマ・パッケージ)に置き換わって…
-
ベルギー出身監督の最新2作が同時公開
夜になると都会では大きな人工音が絶える。すると静寂に遠い地鳴りのような人工音が混じり合って、都会のほかにはない、神経の研ぎ澄まされた独特の空間になる。 ふだんは意識しないそんな〈夜の神経〉を…
-
社会事情を反映し風刺を効かせて描くコメディー
コメディーは国境を超えない。笑いは万国共通というけれど、それはお子さまレベルの話。大人の笑いは風刺も皮肉も社会事情と切り離せない。 今週末封切りの「僕らの世界が交わるまで」はその実例だろう。…
-
ヒジャブ姿の女性通信士に戦争のリアルを見る
正規軍同士が正面からぶつかり合うウクライナの戦争に目を奪われる昨今だが、むろん対テロ戦争も終わってはいない。特に中東のイエメンではサウジが支援する政府軍とイランが支える反政府勢力フーシ派の内戦が長期…
-
アウシュビッツで「死の天使」に仕えた91歳の証言
インタビューに答える人物の上半身を固定カメラで撮り続ける。ニュース映像などでよく見るショットだが、ドキュメンタリーの分野では「おしゃべり頭(トーキングヘッド)インタビュー」などと呼ばれ、退屈な映像の…
-
不安を抱えた人物ナポレオンを描いた“評伝”映画
歴史上の人物を生涯のまま描くのが「伝記」、特定の横顔に焦点を当てたり、なんらかの評価を加えて人物像を描くのを「評伝」という。 そのひそみにならえばこれは“評伝映画”だろうか。今週末に封切り予…
-
絶妙な配色で描き出すこれからの時間と過去の時間
当たり前の話だが、映画は見た目が肝心。特に色づかいはセンスの良し悪しがはっきり出る。ところが日本の映画はこれが苦手で、映像の色彩設計には目を覆いたくなるものも少なくない。 それが最近、うれし…
-
恋人たちの証言を重ねて描く世界的人気作家の素顔
「今度の本を書くのは楽しい」とその作家は秘密の日記に書いたという。「文章の一つ一つが、まるでクギをトントン打ち込むように紙に刻まれていく。爽快な気分だ」 今週末封切りのドキュメンタリー映画「パ…
-
外国人労働者を雇ったことから地元住民と対立し…
20世紀は「戦争の世紀」、21世紀は「テロの世紀」といわれたものだが、近ごろはむしろ「ポピュリズムの世紀」じゃないかと思うことが多い。 現にトランプ支持者を見ても「大衆扇動」より「大衆の専制…
-
ロックが商業化される前の貴重な記録
1960年代は何かにつけて神格化されがちな時代だ。60年の米大統領選で勝利したケネディはわずか3年後に暗殺され、翌々年にはベトナムで地上戦開始。68年には学生運動が世界中で火を噴く。確かに伝説の要素…
-
ゴダール、ヒチコックの監督ドキュメンタリー
このところなぜか映画監督についてのドキュメンタリーがめだつ。少し前は早々と引退宣言した人気者の「クエンティン・タランティーノ 映画に愛された男」があった。そして今週と来週末は2週つづけて「ジャン=リ…
-
ドライビングゲームにハマった英国青年がル・マン参戦
いまどきはやらないものの筆頭といえばモータースポーツだろう。バブル期の浅薄なF1人気はともかく、90年代のAT限定免許あたりからクルマ離れが始まり、不況風の中で自動車熱もしぼんだ。 ところが…
-
10年かけて調べられた風聞の事件を見事に映画化
関東大震災は100年前の天災だが、今回はそれにからんだ人災の話である。 震災から5日後のこと。房総半島を流れる利根川べりの福田村(現在の千葉県野田市)で、通りすがりの行商人の一団が殺害される…
-
監督不詳の軍政下の強権政治の実態を暴く問題作
いまや日常生活をこえてプロの映画製作にまで使われるスマホ。特にドキュメンタリーでは生々しい現場映像の多くがスマホでの撮影だ。初代スマホのiPhoneは2007年発売だから実はまだ20年も経ってないが…
-
伝説の音楽レーベルのドキュメンタリー
海外の音楽ドキュメンタリーが、近頃ずいぶん公開されるようになった。ミュージシャン個人の音楽や人生の話もさることながら、レコード会社とか映画の劇伴など、音楽産業にまつわるものに見るべきものが多いのが面…
-
当節珍しい正統派の続編
ハリウッドの新作映画が“続編だらけ”になったのはいつごろからだろうか。 嚆矢はたぶん「スター・ウォーズ」や「ゴッドファーザー」だが、最近は続編どころか設定だけ共有した「スピンオフ」ものが山と…
-
ノーベル賞作家の遺灰を故郷へ運ぶ旅路
映画監督には兄弟で作品製作をするという人たちが珍しくない。監督になりたいという夢は子ども時代に芽生えやすいが、小説と違って映画は単独では難しい。となれば身近な兄弟を同志にする例も多くなるというものだ…
-
2人の不眠症の高校生を描く青春物語「君は放課後インソムニア」
新人のころから見てきた映画監督がキャリアを積んでゆくさまは楽しい。 個人技の小説と違って映画製作は集団でやる大仕事。それだけに作品の規模が大きくなると自分の個性を貫くのは難しくなる。独創性あ…
-
ユーモアとおおらかさに満ちた「異郷」の作品群
グローバル化による個性喪失が最も進んだ分野は映画じゃないかと思う。中国だろうがインドだろうがもはやハリウッドと代わりばえもせず、多様性など空念仏。つい20年ちょっと前まで、映画祭には「異郷」の作品が…
-
“バービー美人”の若妻が白人至上主義結社を組織
ホラー映画が苦手で困っている。昔ならホラーはマイナーでB級だったから、敬遠してもたいして影響はなかった。だが、いまやホラーは主流のジャンル。おまけに世の中は猟奇殺人や陰謀論であふれ返り、それらをこと…