実話に基づいたイラン女子柔道家の闘い
「TATAMI」2月28日(金)から新宿ピカデリーほか全国順次公開
いまネットで「イラン、柔道」と検索すると、この映画の話が多数ヒットする。今月末封切りの「TATAMI」だ。
イランの女子柔道家レイラが国際大会で勝ち進むが、イラン政府はイスラエル選手との対戦を一律禁止。レイラにも途中棄権の圧力がかかる。そのあらすじの元は、東京の国際試合を舞台にイランの男子選手に起こった実話だという。
とはいえ本作の主題をスポーツの政治的弾圧と見るのは早計かもしれない。イラン政府の方針は軍事国家イスラエルへの抗議のボイコットで、専制主義による自由の抑圧とばかりは言い切れないからだ。
監督はイスラエル出身で米国在住のガイ・ナッティヴ。作中で女性監督を演じたイラン系フランス人ザーラ・アミールが共同で監督し、主演のレイラ役アリエンヌ・マンディもチリとイランの血を引くアメリカ人という顔ぶれは、むしろ彼らがスポーツの政治化というプロットをこなれた手つきでエンタメ化する方に貢献しているように思う。
実際、アメリカとジョージア合作による本作の妙は柔道の組み手や投げの瞬間を観客に体感させるビジュアルであり、日本の武道が神秘的なフレーバーを放つ「コンテンツ」として世界に消費されていることを示したところにある。
現に本作の題名は日本語の「畳」だが、柔道場の畳はいまやウレタン製のマットだし、国際大会はすべて「柔よく剛を制す」とは無縁の体重制。要するに異文化のシンボルとしての「TATAMI」なのだ。
柔道に初めて触れた外国人は受け身という「倒れる技術」から稽古を授かることに驚くという。
ティエリー・フレモー著「黒帯の映画人」(カンゼン 3960円)もその話から始まる。著者はカンヌ映画祭総代表にして9歳から稽古に励む柔道4段。嘉納治五郎を絶賛する現代版ジャポニスムは昨今のインバウンド日本熱にも一脈通じる気がする。 〈生井英考〉