シネマの本棚
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モンゴルのアダルトショップで堅物女子がアルバイト
映画にとってグローバル化なんてものは百害あって一利なし。だが、ときには例外があるのも世の常だ。今週末封切りのモンゴル映画「セールス・ガールの考現学」はその好例だろう。 モンゴル映画というと日…
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80年代を背景に描く伝説のシューズ誕生の奮闘記
先週末封切りの「AIR/エア」。バスケシューズの「エア・ジョーダン」を開発したナイキの社員たちの実名の奮闘記、というと企業PRみたいだが、冒頭のタイトルバックでおや? と思うことがあった。80年代と…
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タイ生まれ、日本育ちの写真家の半生
同じカメラを使うのでも写真と映画は違う。昔は「岩波写真文庫」でルポを撮り、CMや劇映画のカメラも回した長野重一のような人もいたが、専門分業が進んでから兼業の話はめったに聞かない。 そんななか…
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20年前の冤罪事件を基にした権力と戦った男たちの物語
映画やドラマで見る弁護士ほど国情の違いを感じさせる存在も少ないだろう。先月封切られたアメリカ映画「ワース 命の値段」は9.11同時多発テロの犠牲者の遺族への補償を、政府側の特別管理人として担当した弁…
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半世紀を経て現代に蘇ったドキュメンタリー
昔、W・サスマンというアメリカの歴史学者の本で、映画「イージー・ライダー」に出てくるヘルメットに星条旗が描いてあるのはなぜか、という学術論文らしからぬ一節に驚いたことがある。あの映画は「反体制文化」…
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加害者両親と被害者両親の対話で描く銃乱射事件
演劇と映画は、俳優が物語を演じる点は同じでもほかは大きく違う。舞台劇を映画化すると微妙に違和感があるのもそのせいだ。では、映画でしか表せないものは何か。それを深くまで考えさせるのが今週末封切りの「対…
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国際列車に乗り合わせた最悪な男との旅
欧州大陸で国際列車に乗るのは楽しいが、緊張もする。個室車両で知らない人と同室になると相手次第で旅の様相が一変するからだ。そんな体験を思い出させるのが来月10日に封切り予定の「コンパートメント№6」。…
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古典と大衆向け曲作りを結んだ伊作曲家
今年は新年早々うれしい映画、「モリコーネ 映画が恋した音楽家」が封切られる。 「荒野の用心棒」の口笛、「続・夕陽のガンマン」のコヨーテの遠吠え、「1900年」の民衆叙事、「ニュー・シネマ・パラ…
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孤独な大富豪が旅芸人の女を追って旅に
モノンクルこと「ぼくの伯父さん」。といっても若い世代はきょとんとするかもしれないが、フランスの喜劇俳優・監督ジャック・タチの永遠の名作。しゃれた紅緋色をバックにした有名なポスターは長いこと筆者の仕事…
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リングで戦う音のない世界に生きるヒロイン
ボクシング映画といえばロバート・デ・ニーロ主演の「レイジング・ブル」にせよデニス・クエイドの「ザ・ファイト」にせよ、かつては男同士の話が当たり前だった。 それがいつのころからか、女優主演のボ…
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ダイレクトシネマと呼ばれる記念碑的作品
バスタブのように大柄な車のトランクに商品を詰めこんで、広大な北米大陸を長々とドライブして売り歩く。現代でも巡回セールスマンは米社会で最もありふれた商売だ。 今週末封切りの「セールスマン」はド…
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背景の南部の自然が魅力の映画
アメリカのどこが好きかと聞かれたら南部と答える。人種差別などの悪弊は数知れないが、風土の奥行きという点では他に類をみない。そんな南部の風物にあふれた物語が来週末封切りの「ザリガニの鳴くところ」。日米…
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ヒップホップが人種を超え化学反応し若者文化に
90年代半ばのニューヨークでは、かつて場末の肉市場だった地区が最先端のクラブの点在する流行の一帯になっていた。いまは「ミートパッキング」地区として観光地化しているが、当時は人けのない危険な場所にあっ…
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北陸の旧態依然な地方政治を皮肉に観察
古い友人にメールしたら返信の末尾に「コロナで人生観が一変しました」と一言。いまや決まり文句とはいえ、旧友の横顔を思うと、こめられた感慨の重さが伝わってくるようだった。 それに似た感触を覚える…
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母と娘とをつなぐ喪失と癒やしの物語
人をつなぐ絆の中でも母と娘のそれはとりわけ強い気がする。その深みを描くのが先週末封切りのフランス映画「秘密の森の、その向こう」である。 子役を上手に使った映画は世界中あまたとあるが、本作には…
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ユダヤ人大虐殺のアーカイブドキュメンタリー
ロシアのウクライナ侵攻開始からちょうど7カ月を迎える9月24日に、ウクライナのドキュメンタリー「バビ・ヤール」が封切られる。 同国は第2次大戦中、悪名高い独ソ戦に翻弄されたが、そのさなか3万…
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同じ高級アパートに住む3家族の扉の向こう
いまどきの映画監督には珍しく、イタリアのナンニ・モレッティは堅物である。コメディーの「ローマ法王の休日」でさえ、生真面目でリベラルで、そのぶん悩みも深い。 本人も自覚的で、自作にもしばしば悩…
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妻の素行を疑い、困惑に追い込まれてゆく主人公
決まり文句というのはいわば人生の知恵の産物だろう。たとえば「禍福はあざなえる縄のごとし」。年経た者が生涯をふりかえるとき、誰しも必ずや後悔する。その失意をかろうじて救うのが、この決まり文句なのだ。若…
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反戦帰還兵の夫の死からベトナム戦争の傷痕を探る旅に
今年はベトナム戦争で米軍が正規地上部隊の撤退を始めてからまる50年になる。 撤退完了は翌年、戦争自体はさらに2年続くから、終戦でも停戦でもない。だが、これを機に世論の関心は戦争から急速に離れ…
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物語映画の可能性を切り開いた女性の生涯
昨年から今年にかけて女優・田中絹代の監督作品が各地で特集上映され、「忘れられた映画作家の発見」と話題になった。今週末封切りの「映画はアリスから始まった」はそんな“ジェンダー映画史”の系譜の最初のひと…