シネマの本棚
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世間になじめない人間の業を描いた「幻の傑作」
どうしても世間になじめない人間がいる。なじめないまま、居心地の悪さをうまく受け流せずに落ちてゆく。今週末封切りの伝説の映画「WANDA/ワンダ」はそういうアメリカの物語である。 伝説というの…
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反プーチンの活動家を追うドキュメンタリー
いまロシア関連のニュースは9割がウクライナ情勢だが、その前に話題だったのが反プーチンの活動家アレクセイ・ナワリヌイの動向。昨年1月、ドイツから投獄覚悟で帰国した際には搭乗機の中も報道陣が同行し、空港…
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マニア垂涎の堂々167分映画ウンチク大全集
マニアックな映画ファンというのは、自分の発見を誰かに語りたくてたまらないというハタ迷惑な人種である。 近ごろやけに多い映画のユーチューバーはこの手だろうが、同じ映画談議でもプロがやるとやっぱ…
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世紀の逆転劇ドレフュス事件を描く
世界中で吹き荒れる人種差別の嵐。共通するのは差別主義者が「危機感」を口にすることだ。“わが国の伝統が異人種に脅かされている”といったアレである。トランプだけじゃない。フランスではルペンが、ハンガリー…
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要所要所のリズムやタメがいい“お仕事ムービー”
通勤電車で奇妙な光景を見かけた。イヤホンをしてスマホをのぞきこむ若いサラリーマン。見れば早送りの映画に見入っているのだ。 字幕があるとはいえ、ちょこまか動く人物の姿に物語もヘッタクレもあるも…
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映画監督カップルの精神的な関係が話の核
ウクライナ報道の嵐で影が薄いが、この4月は「女性活躍推進法」が改正され、中企業にも報告義務が課された。 だが実は制度化が進むと、抑えられていた側の不満の声は逆に高まる。人種問題もそうだが、長…
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過酷な労働環境にひとりの女性が立ち上がる
「今年7月末に閉館」のニュースで大勢の映画ファンが故郷を失うように感じたのが神保町の岩波ホール。その空白を埋めるように最終期のラインアップは佳作ぞろいで、4月16日封切り予定の「メイド・イン・バングラ…
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ハリウッドの配役という華やかな世界の裏側
現代のアメリカ映画は“商品作り”があざとすぎて辟易するが、ひとつだけ感心するのは配役。判で押したような陳腐なストーリーでも、ある役に見合った、それらしい顔かたちや外見の俳優を抜擢する力は、いまもあな…
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記憶喪失の頼りない感覚を描く“奇妙な味の映画”
ちかごろ「記憶」に関わる不思議な映画が目につく。 公開中の作品だと「選ばなかったみち」が若年性認知症で記憶を失う作家の話。先週末には他人の人格や記憶を乗っ取る女の殺し屋を描くSFホラー「ポゼ…
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外国人収容施設での面会を隠し撮り
ふだんは政権批判などしたがらない経済紙に「『残酷日本』鎖国に失望」という見出しがあって驚いた。記事によると、在留資格を得ながらコロナ禍を理由に入国できない留学生や技能実習生らが約37万人いて、このま…
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独身介護士よしこの前にホームレスの男が…
コロナ禍に突入してはや2年。いまも終息の兆しなく、変異株の拡大は爆発的なのに「重症化のリスクは減少」の楽観論だけで規制は半端に緩和される。どうみても社会全体が“緩慢な死”に追いやられているのではない…
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架空の雑誌の編集部が舞台のファンタジー映画
ニッポン人にはどういうわけか、ニューヨークを「コジャレた街」と思ってる向きが多い。ほんとかね。だってトランプを生んだ街ですよ? とはいえ、その手の思い入れはどの国にもある。たとえばアメリカ人…
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聴覚障害の一家の長女が歌の才能を見いだされ…
うまい映画はうまい食堂の飯に似ている。当たり前のメニューでも、ちゃんとした素材と下ごしらえで、手ぎわよく仕上げて「おっ」と思わせる。そんな映画に正月早々出合った。来週末封切りの「コーダ あいのうた」…
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伝説のコメディアンの短い生涯を辿るドキュメンタリー
以前、大学で教えたゼミ生に、お笑い芸人を目指し、今はテレビ局員の若者がいて、その動機を「家の中が荒れてた時にお笑い番組だけは皆で一緒に見てましたから」と語ってくれた。図らずもその話を思い出したのが、…
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常識破りの回転レシーブに脅威を感じたソ連
IOCの圧力と官邸の下心で強行された今夏の東京五輪。大赤字必至の「総括」は今月発表と聞くが、コロナ禍での不景気も含め何だかむなしい年の瀬にふさわしい(?)ドキュメンタリー映画が先週末から公開されてい…
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水俣病の人々への寄り添い方を示した記念碑的作品
ジョニー・デップが写真家ユージン・スミスを演じた映画「MINAMATA-ミナマタ」が封切られた際、都内ではかつて土本典昭監督が撮ったドキュメンタリー「水俣 患者さんとその世界」と「水俣一揆 一生を問…
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ダークファンタジー風味のピノキオ物語
昔話が現代の子ども向け物語にされるときに、大幅な書き直しや、残酷な描写が削られたりするのが多いのは割に知られた話だろう。 有名なグリム童話も、もとはグリム兄弟による民話採集の集成。19世紀初…
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少女の危機感と孤独が切々と伝わるドキュメンタリー
何事によらずコロナ禍の前のことは遠い過去に感じられてしまうが、あの「北欧の少女グレタ」はどうだろう。2年前の国連の気候変動会議で怒りの涙を浮かべ、「こんな世界なのに大人たちはまだ経済成長の話ばかり。…
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小野田寛郎元少尉の潜伏生活を描く長編劇映画
1974年といえば団塊ジュニア世代の最後の生まれ年だが、実は戦後ニッポンの象徴的な事件が起きた年でもある。敗戦から28年余にわたり、「徹底抗戦」を信じてフィリピンの密林に潜んだ小野田寛郎元少尉の帰国…
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大事故の謎に迫ったルーマニアのドキュメンタリー
大手マスコミが報じない事の真相を非主流派メディアが果敢に追及して暴く――。いえ、日刊ゲンダイの話じゃありません(笑い)。 ルーマニアの新聞「ガゼタ・スポルトゥリロル」(その名も「スポーツ新聞…