文豪の意外な素顔に触れる本
「鉄幹と文壇照魔鏡事件」木村勲著
明治34年3月、書店に並んだ「文壇照魔鏡」なる書物が物議を醸す。著者、発行者、発行地がすべて架空だったその本は、前年4月に創刊され急伸長していた雑誌「明星」の主宰者・与謝野鉄幹の女性問題や金銭を巡る道徳性を糾弾するすさまじい非難の書であった。他のマスコミも追随して、鉄幹へのバッシングがはじまり、それは年末まで続いたという。
そのスキャンダルの渦中で結ばれた鉄幹と晶子、そして鉄幹を愛しながらも親の決めた結婚を受け入れた山川登美子、そんな登美子に密かに思いを募らせ、文壇照魔鏡を世に出したと思われる文学青年・高須梅渓。本書は、騒動の背景を解き明かしながら、事件が各人のその後の人生に与えた影響や、社会に投げかけた問題を考察するノンフィクション。(国書刊行会 2200円+税)