「花折」花村萬月著
主人公は、画家の父と性にあけすけな母のもとで育った鮎子。父の下で幼児の頃から絵の英才教育を受け、当然のように東京芸術大学に進学した。鮎子に熱い視線を寄せる同級生には全く興味が持てず、興味をひかれたのは大学の裏山に住むホームレスの男。イボテンと名乗るその男は鮎子を小屋に誘い、体の隅々まで指先で測定した上で体の関係を結ぶ。
それから、明けても暮れても四六時中セックスをする関係になったが、夏休みで帰省しているうちにイボテンと名乗る男は鮎子のヌード画を残して自殺していた。鮎子は死んでしまったイボテンの才能と、強烈な性体験に支配されるようになっていた……。
「ゲルマニウムの夜」で第119回芥川賞を、「日蝕えつきる」で第30回柴田錬三郎賞を受賞した著者による最新作。若き女性芸術家の主人公が、高校の担任教師、類いまれなる絵の才能を持ったホームレスの男、小説家の男など、自分を欲しがる男たちを翻弄していく。
鮎子からインスピレーションを得て小説に没頭していく小説家など、すべてを芸術へと転化させずにはいられない芸術家の生が濃厚に描かれている。
(集英社 1800円+税)