「世界のキレイでこわいいきもの」パイ インターナショナル編 新宅広二監修・執筆
その美しさに見惚れて、うかつに手を出すと痛い目に遭いそうな生き物たちを世界各地から集めたポケット写真集。
動物の中でも好き嫌いがはっきり分かれるのが爬虫類だろう。好きな人には、あのひんやりとした手触りや、美しい鱗がたまらないらしい。
東南アジアの森林で樹上に生息する「パラダイストビヘビ」は、そんな爬虫類好きにぴったりのヘビ。黒い体表にはクロスステッチ刺繍のようにオレンジと緑の精緻な模様が規則正しく並び、艶やかな工芸品のようだ。
しかし、このヘビ、その美しさからは想像もできないほどの身体能力を持つ。獲物を見つけると肋骨を広げて体を平たくして水平に飛び、別の木に移る。
その距離、最高でなんと100メートル近くに及ぶというから驚きだ。
パラダイストビヘビが頭上の工芸品なら、北米の砂漠地帯に生息する「ヨコバイガラガラヘビ」(写真①)は、さながら砂漠のアーティストだ。
茶とグレーの渋い配色のその体が砂漠を這うように移動すると、後には線画のような美しい文様が砂の上に描き出されるのだ。
滑りやすい砂の斜面では、最も効率がよい移動方法らしい。
そして夜、彼らは「赤外線探知機(ピット)」を使って獲物を探すらしい。
愛嬌のある顔をしたカエルは、日本人にとっては「こわいいきもの」では決してない。しかし、中南米に生息するカエルたちは、その愛くるしい顔とは裏腹にかなりヤバいやつらだ。
先住民たちがその毒を矢にすり付けて狩りに利用したことから「ヤドクガエル」(写真②)の名を持つ面々だ。生物が持つ毒としてはトップクラスだという彼ら。網目などの模様や、赤や黄色、そして金色まで色彩も豊かで動く宝石のようだ。
中でもひときわ目を引くのは、南米スリナムの熱帯雨林に生息する世界で最も美しいといわれる毒ガエル「コバルトヤドクガエル」だろう。
その名の通り、全身が透明感のあるコバルト色で、背中側には色の濃淡で水玉模様が浮き出している。
しかし、誤って口にした鳥や哺乳類は、瀕死の状態に陥り、二度と手を出さなくなるという。
その他にも、目にも鮮やかな黄色いレースのゴージャスなドレスをまとった東南アジアのキノコ「ウスキキヌガサタケ」などのきのこや植物。15本ほどの触手が最長4・5メートルにも達し、クラゲの中では最強クラスの毒を持ち、海のスズメバチと呼ばれる「オーストラリアウンバチクラゲ」(写真③)など水中の生き物、鱗粉がなくガラスのように透明な羽でひらひらと舞う「ツマジロスカシマダラ」(食べた鳥が嘔吐するほどの毒を持つ)などの昆虫まで、139種の生き物たちを収める。
自然界では決して出合いたくないが、写真なら存分にその美しさを愛でることができ、こうした生き物たちが暮らす地球の豊かさや多様性に改めて気づかせてくれる写真集だ。
(パイ インターナショナル 1800円+税)