「世界の美しい橋」パイ インターナショナル編
世界各国のえりすぐりの橋を収めたポケット写真集。
冒頭を飾るのはイタリア・ベネチアのカナル・グランデ(大運河)に架かる、かの有名なリアルト橋。大理石造りのこのアーチ橋は、ベネチア観光の目玉のひとつだが、同じくカナル・グランデの西端には2008年に駅とローマ広場をつなぐため近代的な歩道橋コスティトゥツィオーネ橋が架けられた。運河の水面のきらめきが反射するガラス素材が使われたこの橋は、近未来的でありながら歴史ある街の風景に早くも溶け込んでいる。
このように歴史ある橋から新しい橋、その街の観光名所となっているような有名な橋から、住人たちしか渡らないような名もなき橋まで、189もの名橋が登場する。
産業革命発祥の国イギリスには、世界初の鉄製の橋、その名も「アイアンブリッジ」(1781年)がいまも現役で活躍中である。イングランド西部のセバーン川の渓谷に架けられたその橋は、ただ古いだけでなく周囲の豊かな緑の風景と調和して、水面に映った橋で眼鏡橋ならぬ巨大なサークルを作り出す。
イギリスには古代から中世の「石積桁橋」の姿を今に伝える「ポストブリッジ」や「ターステップス」など、橋の原型ともいえるものがあるかと思えば、2001年架橋の「ゲーツヘッド・ミレニアム・ブリッジ」のように日本では見たこともないような可動橋もある。
タイン川に架かるこの歩道橋は、巨大なアーチが湾曲した歩道部分を支える構造・デザインなのだが、船の航行時には全体が川面に向かって傾くように動くのだ。その動きはウインクするかのようで、「ウィンキング(まばたき)橋」の愛称を持つそうだ。
このウィンキング橋が再開発によって文化エリアに生まれ変わった河岸地区への入り口であるように、此岸と彼岸を結ぶ橋は、違う世界への入り口でもある。
世界最大級、直径110メートルの観覧車「天津之眼」を組み込んだ中国・天津の「永楽橋」(2009年)などは、さながら夢の世界への入り口だろうか。
由緒ある橋や大仕掛け、そして最新のデザインなどがこれでもかと並ぶ中、カンボジアの名もなき橋「メコン川に架かる橋」を見ると、そののどかさになんとも懐かしさを感じる。
おびただしい数の木材を川に突き刺してその上に横板を張っただけのようなシンプルな橋なのだが、無造作な木組みが味わい深い情景を作り出し、川面を吹き渡る風が気持ちよさそうだ。
他にも、現存する世界最古の木造橋「カペル橋」(スイス・1333年)、礼拝堂がある島へと渡る巡礼路のようなスペインの石橋「サン・ファン・デ・ガステルガチェ」、そしてもちろん日本の明石海峡大橋(1998年)や錦帯橋(17世紀)なども登場する。
見ているだけで時間が経つのも忘れてしまうほど、橋には意外な魅力が詰まっている。
(パイ インターナショナル 1850円+税)