「旅と冒険の人類史大図鑑」マイケル・コリンズ監修、サイモン・アダムズ、R・G・グラントほか著、西崎香ほか訳

公開日: 更新日:

 私たちの祖先は、定住するまで何千年もの間、遊牧民として生きてきた。そして、定住後も交易や戦争、巡礼、入植や征服など、さまざまな理由から移動=旅を繰り返す一方で、好奇心に突き動かされるように、未知なる世界を求めて冒険に出る者も後を絶たなかった。

 本書は、古代から現代まで続くそうした移動の足跡をたどりながら人類の壮大な歴史を概観するビジュアル大図鑑。

 紀元前2340年前後、メソポタミアのシュメールに世界で初めて帝国が出現。アッカドのサルゴン王が樹立したこの帝国は、木材は西方のレバノンから、鉱物資源は南方のシナイや東方のイラン、石材は北方のアナトリア、そして陶磁器はインド、さらに金銀、宝石類はありとあらゆる地域からやってくるなど、交易路が四方八方に張り巡らされていた。

 遠くアフガニスタンから持ち込まれたラピスラズリを用いたモザイク画が施された古代都市ウルから出土した工芸品「スタンダード」や、粘土板でできた売買証書が当時の活発な交易を今に伝える。

 また、エジプトのハトシェプスト王妃の葬祭殿の壁画に描かれた謎の王国プントへの使節団の遠征の様子からは、限られた交通手段で道なき道を切り開いていく古代の人々の勇気と努力が分かる。

 紀元前814年に地中海東部の沿岸部から現在のチュニジアの一部にあたるカルタゴに首都を移したフェニキア人は、歴史上初めてアフリカ大陸を一周する航海を達成したという。

 以後、時代を追って13世紀のマルコ・ポーロの2万4000キロにも及ぶ旅や、15世紀末から16世紀初頭にかけての4度にわたるコロンブスの航海など、人類史のエポックとなる旅がさまざまな図版や地図とともに紹介される。

 歴史上の人物としてよく聞くそうした名前のほかにも、大航海時代の始まる前の1405年から22年まで6回もの航海で、60余隻の大型艦船による巨大船団を率いて中国からインド洋、アラビア海を渡ってアフリカへと到達した明朝の武将・鄭和や、動植物から月のクレーターや海流にまでその名を残す18世紀の探検家アレクサンダー・フォン・フンボルトら、さまざまな人物の旅とその功績が紹介される。

 もちろん取り上げられるのは輝かしい歴史だけではない。スペイン王室が新世界に派遣した「コンキスタドール(征服者)」と呼ばれる探検家兼軍人のひとり、エルナン・コルテスによるアステカ帝国征服や、フランシスコ・ピサロによるペルー征服など南アメリカの歴史を一変させた遠征から、1200万人ものアフリカ人が奴隷として大西洋を渡って南北アメリカ大陸へ送られた史上最大の集団移動など、人類の負の歴史も直視する。

 列車や車、飛行機など、乗り物の登場によって人の移動が飛躍的に進歩してきた過程も解説。

 人類の歴史を斬新な視点で俯瞰した大著。

 (河出書房新社 刊行記念特別定価9000円+税、3月1日以降は1万2000円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 2

    “氷河期世代”安住紳一郎アナはなぜ炎上を阻止できず? Nキャス「氷河期特集」識者の笑顔に非難の声も

  3. 3

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  4. 4

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  5. 5

    大阪万博の「跡地利用」基本計画は“横文字てんこ盛り”で意味不明…それより赤字対策が先ちゃうか?

  1. 6

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  2. 7

    大谷「二刀流」あと1年での“強制終了”に現実味…圧巻パフォーマンスの代償、2年連続5度目の手術

  3. 8

    国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に「満額回答」で大ピンチ

  4. 9

    野村監督に「不平不満を持っているようにしか見えない」と問い詰められて…

  5. 10

    「今岡、お前か?」 マル秘の “ノムラの考え” が流出すると犯人だと疑われたが…