「今夜、すべてのバーで」中島らも著
現在、日本では酒を飲む人の割合は以前に比べて減っているが、逆に多量飲酒者の数は増えており、アルコール依存症と疑われる人は300万人近くになっているという。
本書は15年前、52歳の若さで世を去った中島らもの、自らが体験したアルコール中毒による入院生活をもとにした小説である。
小島容は35歳。18歳くらいからほぼ毎日ウイスキーなら1本くらいを飲み続けてきた。25歳で定職に就くが、健康診断で肝機能を示すGPT、γGTPなどが正常値をはるかに超え、禁酒を言い渡される。このまま飲み続けたら10年後には死ぬと言われたにもかかわらず、物書きとして独立したことで定時出社という歯止めが外され酒浸りの毎日を送っていた。そこへミステリーに挑戦するという仕事が舞い込み、書けないプレッシャーでアルコールの量が増し、ついに入院となった。
病院には、アル中で入退院をくり返していたにもかかわらず、病院の死体安置所に置かれていたエチルアルコールを隠れて飲むという破天荒な爺さんもいた。小島自身もアルコールを完全に断つという気にはなれず、ある日、禁を犯してしまう。
そこへ小島の事務所を手伝っているさやかが現れる。さやかはかつて小島と一緒に飲み歩いていた天童寺不二雄の妹。不二雄もまたアル中で交通事故で死んだ。さやかはある書類を小島に渡す。そこには、アル中に苦しめられた天童寺家の凄絶な記録が記されていた……。
ほとんどの人は、酒は飲んでもアル中なんてのは他人事だろうと思っているだろうが、実はアルコールの依存性は非常に強い。その恐ろしさとアルコールとの葛藤を見事に描いた吉川英治文学新人賞受賞作。 <石>
(講談社 560円+税)