「居酒屋ぼったくり1」秋川滝美著
居酒屋というと、なんとなくほっこりした温かな感じがするが、最近の居酒屋のチェーン店ではタブレットでの注文のところも多く、いささか興ざめである。本書の舞台である居酒屋はそんなチェーン店とは真逆で、客の一人一人に細かな気遣いをする「昭和感」たっぷりの店。
【あらすじ】東京・下町の商店街にある居酒屋「ぼったくり」。全部で20人も入れないような小さな店で、取り仕切るのはアラサーの美音と妹の馨の姉妹2人。なんとも物騒な名前だが、これは、店を開いた父が、誰でも買えるような酒や、どこの家庭でも出てくるような料理で金を取るうちの店はそれだけでぼったくりだ、と自嘲気味に言っていたことに由来する。事故で亡くなった両親の店を引き継いだ美音は、うまい酒とうまい料理、そして正直な商いという方針も引き継ぎ、馴染みの客も変わらず通ってきてくれている。
ぼったくりという名前にもかかわらず、値段は極めて庶民的。何かトラブルがあったのか、常連のトクさんが「今日は一番高い酒をくれ!」といってきても、美音は今日のおすすめはおでんなので、それに合う酒をと提案。隣の常連シンゾウは、説明なしについだ酒でも、銘柄はおろか酒米まで当ててしまうという目利き。美音はラベルを隠して今度こそと挑むが、シンゾウに見事見破られてしまう。落ち着いたところで、今度は卵の黄身の味噌漬けを出して、酒も冷やからお燗に変える……。
【読みどころ】ちょっと気が強くて酒と料理の勉強に熱心な美音と現代的で明るい馨、そして個性の強い常連の面々が織りなす人情味あふれる物語。そこに彩りを添えるのはおいしい料理と酒。原作そのままの雰囲気を再現したTVドラマも楽しめる。 <石>
(アルファポリス670円+税)