「愛なんてセックスの書き間違い」ハーラン・エリスン著 若島正、渡辺佐智江訳

公開日: 更新日:

 ハーラン・エリスンは、アメリカのSF界を代表する短編小説作家。「世界の中心で愛を叫んだけもの」「死の鳥」などの作品で知られ、日本でも放映されたテレビドラマ「アウターリミッツ」「ヒッチコック劇場」などの脚本も手掛けた。

「愛なんてセックスの書き間違い」は、1968年に出版された初期の短編集のタイトル。これを基に日本でオリジナル編集した非SF作品11編を集めている。全編本邦初訳。

 父を探し出して殺すためにイチゴ農園にやってきた16歳の少年フェアは、飢えた野生の獣のようだ(「第四戒なし」)。妻と別れたポールは手当たり次第に女と寝る放埓な生活をしながら、悪夢と恐怖に苛まれている(「孤独痛」)。学識豊かな紳士メストマンは、穏やかな日常を脅かす隣家の不良息子を許すことができなくなっていく(「ガキの遊びじゃない」)。

 非行少年、暴力、殺人、セックス、闇の妊娠中絶、ラジオDJ、ジャズ……。俗っぽくてテンポのいい会話、映像を見るような暴力シーン、男心をそそる女たち。痛々しくとがった若者は、映画「理由なき反抗」のジェームズ・ディーンや「ウエスト・サイド物語」の不良たちを思わせる。1950~60年代アメリカの暗部の気配が漂う刺激的な傑作ぞろい。

 後にカリスマ作家となったエリスンは、昨年6月に、84歳で亡くなった。

(国書刊行会 2400円+税)

【連載】ベストセラー読みどころ

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    1年ぶりNHKレギュラー復活「ブラタモリ」が好調も…心配な観光番組化、案内役とのやり取りにも無理が

  2. 2

    大リストラの日産自動車に社外取締役8人が「居座り」の仰天…責任問う大合唱が止まらない

  3. 3

    眞子さん極秘出産で小室圭さんついにパパに…秋篠宮ご夫妻に初孫誕生で注目される「第一子の性別」

  4. 4

    広島新井監督がブチギレた阪神藤川監督の“無思慮”…視線合わせて握手も遺恨は消えず

  5. 5

    故・川田亜子さんトラブル判明した「謎の最期」から16年…TBS安住紳一郎アナが“あの曲”を再び

  1. 6

    三山凌輝活動休止への遅すぎた対応…SKY-HIがJYパークになれない理由

  2. 7

    所属先が突然の活動休止…体操金メダリストの兄と28年ロス五輪目指す弟が苦難を激白

  3. 8

    大阪万博は値下げ連発で赤字まっしぐら…今度は「駐車場料金」を割引、“後手後手対応”の根本原因とは

  4. 9

    芳根京子“1人勝ち”ムード…昭和新婚ラブコメ『めおと日和』大絶賛の裏に芸能界スキャンダル続きへのウンザリ感

  5. 10

    国民民主党・玉木代表は今もって家庭も職場も大炎上中…「離婚の危機」と文春砲