「検事の信義」柚月裕子著
物語は、東京地検から米崎地検に配属されて5年目になる検事・佐方貞人が、担当になった殺害事件に疑問を持ったところから始まる。
認知症だった母親・道塚須恵を息子・昌平が殺害した事件で、本人は介護疲れから殺害したと自供しており、一見何の問題もないようにも思えるのだが、被害者の遺体発見から逮捕までの2時間に、昌平がなぜ遠くまで逃げなかったのか、不思議に思ったのだ。佐方は、昌平と関わりのあった人に聞き取りを進める。すると、さまざまな証言から当初考えられていた昌平とは全く別の人物像が浮かびあがってきた。(「信義を守る」)
「最後の証人」「検事の本懐」「検事の死命」に続く、累計部数40万部突破の人気の「佐方貞人シリーズ」第4弾。本書には、「罪はまっとうに裁かれなければならない」という信条を持つ佐方の姿を描いた「裁きを望む」「恨みを刻む」「正義を質す」「信義を守る」の4つの短編が収録されている。しがらみも忖度もなく、ただ事実を正確に見極め、検事としてのまっとうな仕事をクールに遂行する佐方のブレのない姿に、しびれること必至だ。
(KADOKAWA 1500円+税)