「歌舞伎の101演目解剖図鑑」辻和子著
400年以上の歴史を持つ歌舞伎は、「美しく巨大な迷宮」のようであり、長年観劇を続けていても次々に未知の扉が現れてくるという。そんな迷宮を迷わずに歩く最初の重要なカギとなるのが「基本設定の理解」だ。
本書は、数ある歌舞伎作品の中から選りすぐりの101演目のあらすじを、名場面や見どころをイラストで解説しながら、紹介する入門ガイド。
歌舞伎の演出は「型」と呼ばれる形式で構成され、各登場人物もキャラによって化粧や髪形、衣装などが決まっている。
例えば有名な「隈取り」も役柄によって色柄が異なり、赤色は陽性、青色や茶色は陰性のキャラで、隈取りの線が多いほど超人度が増す設定だという。
また、音楽と同じように歌舞伎の演目にもさまざまなジャンルがあり、「武家や公家の世界で起きる社会的な事件」を題材にした「時代物」や、庶民の生活の中で起こる出来事を題材にした「世話物」など素材で分かれたり、人形浄瑠璃が原作の「義太夫狂言」と歌舞伎のためだけにつくられた「純歌舞伎狂言」とルーツなどで分類される。
そうした基本の“基”をおさらいしてから、いよいよまずは歌舞伎十八番の中でもとくに人気の高い「助六由縁江戸桜」から、代表的な世話物「三人吉三巴白浪」、時代物の要素が詰まった名作「ひらかな盛衰記」などを一つ一つ解説。
複雑に絡み合う物語の背景から、登場人物たちの衣装の絵柄の意味や、同じ場面でも役者によって異なる演技など、イラストによって再現される名場面と勘所を押さえた説明で、ついつい引き込まれてしまう。
ハードルが高いと感じていた歌舞伎をぐっと身近に、そして何よりも劇場でホンモノを見てみたいという気にさせてくれるお薦め本。
(エクスナレッジ 1800円+税)