「美しい海の生き物 きずな図鑑」中村庸夫著
長引くステイホームで、DVや虐待が増加したなどと報じられるが、大方の人は家族と過ごす時間が長くなり、きずなが深まったと感じているのではなかろうか。きずなを築く生き物は人間だけではない。
海洋写真家の著者によると、海の生き物たちのカップルとの関係やきずな、子育てや親子関係、仲間とのきずなは人間社会からは想像ができないほど多種多様で驚かされるという。癒やしを感じるそうした生き物たちとの出合いは、心休まる幸せな時間を与えてくれるのだそうだ。
本書は、海の生き物たちのきずなが感じられる写真を紹介しながら、その生態や撮影のエピソードを明かす生き物図鑑。
ハワイの言葉で「神の鳥」と呼ばれるシロアジサシは、強い日差しからヒナを守るため、翼を広げて陰をつくり、カリブ海バハマ諸島沖の青い海の中ではタイセイヨウマダライルカの親子が片時も離れず体を寄せ合いながら優雅に泳ぐ。
他にも、南極海に浮かぶクロゼ島の海岸で、口の大きさを競い合うように向かい合ってほえるミナミゾウアザラシの母子など、虐待などという言葉とは無縁の動物たちの親子の姿はなんとも愛情いっぱいでほほ笑ましい。
一方、インド洋に浮かぶカナック島で出合ったオーストラリアアシカの若いカップルや、静岡・大瀬崎の海底に涼む空き缶を巣にするミジンベニハゼのペアなど、仲むつまじいカップルたちの姿にこちらまで赤面してしまいそうだ。
ちなみに、ミジンベニハゼは一夫一妻制で、どちらかが死ぬまでペアが続くという。
他にも、ベンテンコモンエビに口の中を掃除してもらうユカタハタ(慶良間諸島)など、種を超えて共に生きる関係の生き物たちも網羅。
確かに、彼らを眺めているだけで、心のストレスが溶けていくようだ。
(二見書房 2230円+税)