「[図説]毒と毒殺の歴史」ベン・ハバード著 上原ゆうこ訳

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 2年前、英国で起きた毒殺未遂事件に世界中が震撼した。後に被害者の元スパイの自宅玄関のドアノブに吹き付けられていたのが旧ソ連の研究所で開発された猛毒「ノビチョク」と判明したのだ。

 目障りな人物に毒を盛って葬る毒殺の歴史は、人類の始まりまで遡ることができるほど古いという。本書は、歴史上の人物から現代のテロリストまで、毒と毒殺にまつわるエピソードを集めた身の毛もよだつ戦慄本。

 エジプト最後のファラオ・クレオパトラも、毒物に強い関心を抱いており、さまざまな毒を死刑囚で試し、その結果を克明に記録していたという。結果、アスピスという毒蛇にかまれたときだけ、眠るように死ねることを知った彼女は、自死に追い込まれた際にそれを用いたと伝わる。

 他にも、古代ローマの毒薬使いの中でもとりわけ悪名高い皇帝ネロの母親アグリッピナをはじめ、未亡人になりたがっている女性たちに自ら開発した毒薬を売り600人以上の男性を死に至らしめた17世紀イタリアのジューリア・トファーナや、ルイ14世の愛人モンテスパン夫人をはじめ宮廷に出入りする多くの貴族がその顧客リストに載っていたというフランスの「毒の御用商人」カトリーヌ・モンヴァワザン、19世紀のイギリスで生命保険金を目当てに結婚とヒ素による毒殺を繰り返し21人を殺したメアリ・アン・コットン、そして2006年に放射性毒物ポロニウム210で暗殺されたロシアの元スパイ・リトヴィネンコや冒頭の事件まで。

 暗殺者が用いたそれぞれの毒の由来や、効力、殺傷力の解説も充実。各エピソードが物語る、秘められた殺意と忍び寄る毒殺の恐怖は、下手なミステリーを読むよりもリアルで怖い。

(原書房 3000円+税)

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