「人形たちの白昼夢」千早茜著
嘘をつけない私にとって、傍らに置く人形は身を守ってくれる壁であり、唯一の他者との懸け橋だ。酒場で出会った大きな真珠のネックレスをした女は、何を聞いても作り話しかしない。彼女が身につけている真珠はクモが冬眠するときにつくるコットンパールだという。私の家に居続ける彼女は、夜になると人形の夢の話をする。(「コットンパール」)
生まれたときの記憶を持つあたしは、気味が悪いと、巻き毛の人形と共に捨てられた。あたしを拾ってくれたのは赤い服を着た女、カンタロープだった。カンタロープに連れていかれた裏町の崩れかけた元病院には赤い服を着た女がたくさんいた。彼女たちは町の人々から緋色の女と呼ばれていた。(「プッタネスカ」)
人形が夢に見た耽美で幻想的な12の物語。
(集英社 590円+税)