「人生がそんなにも美しいのなら」荻原浩著
直木賞作家・荻原浩の漫画作品集である。あとがきを読むと、荻原浩はもともと漫画家を志していたという。ところが描いてはみたものの、うまくいかず、断念して広告制作会社に就職。コピーライターとして働いたのちに作家となって直木賞を受賞。(それからも順風満帆といっていい活躍をしていくが)60歳のときに若き日の夢を思い出して再挑戦し、ついに一冊の作品集を刊行、という経緯だったようだ。
なんだ素人の手すさびか、と早とちりする人がいるかもしれない。そう思ってこの本を開くとびっくりする。8編を収録しているが、絵がうまいのはもちろんであるものの、絶妙な物語ばかりなのだ。
困るのは、ネタをばらさないほうが絶対にいいので、詳しくは紹介できないことだ。たとえば、ファンタジー「猫ちぐら」はほのぼのしてくるし、SF「ある夏の地球最後の日」は予想外の展開が楽しいが、どちらも細かく紹介してしまうと、読者の興をそいでしまいそうなのである。黙ってお読みになることをおすすめしたい。
冒頭の「大河の彼方より」は、流れついた瓶の中に入っていた手紙を読むと、想像を絶する冒険譚が語られていた、という一編だが、悠久の時の流れを感じる傑作だ。しかし好みで1編選べば表題作。漫画でなければ、この温かみは描けないのではないか。ラスト1コマが、特に素晴らしい。 (集英社 1200円+税)