「浮世絵動物園」太田記念美術館監修 赤木美智、渡邉晃、日野原健司共著
江戸時代の人々も、現代人と同じように、猫や犬はもちろん、さまざまな動物を身近に置き、かわいがった。荷物や人を運ぶのに活躍した馬や牛も、日常の風景の中に溶け込んでいた。上等な馬は、ステータスシンボルでもあり、現代の車のような存在だったそうだ。
江戸っ子たちとさまざまな動物とのそんな関係が分かる浮世絵を鑑賞するビジュアルブック。
ページを開いて、まず目に飛び込んでくるのは、白猫に頬ずりせんばかりに顔を寄せる少女。白猫は、彼女が着る着物の襦袢の掛け襟とおそろいの布の首輪をしており、その溺愛ぶりが察せられる。
他にも、立った女性の着物の裾にじゃれついて遊びを催促したり、女性の肩に乗って彼女が手に持つ手紙を一緒にのぞき込む小型犬の狆、ガラス鉢がまだ一般的でなく、水盤に泳がせてその姿を上からめでる「上見」が観賞スタイルの基本だったという金魚、そしてホタルでも入っているのだろうか、少女が持つ虫籠など。
どの浮世絵も、江戸の人々がさまざまな生き物をかわいがっていた様子がよく伝わってくる。さらには、タコや大蛇、スズメ、コウモリ、カタツムリなど、登場人物の着物や装飾品に生き物が描かれた浮世絵をはじめ、吉祥や長寿の象徴として親しまれた鶴や亀、庚申信仰と結びついた猿、疱瘡よけのミミズク、地震を引き起こすとされたナマズなどの迷信や信仰に関わる動物たちが描かれた浮世絵、さらにゾウや虎、ダチョウなどの舶来の珍獣動物が描かれたものなど、160点もの浮世絵を読み解いていく。
合間には、飼い主に代わって憧れの伊勢参りをする「おかげ犬」などの動物にまつわる当時のエピソードも多数紹介。
浮世絵好きはもちろん、動物好きにもお薦めの手軽なアート本。
(小学館 2640円)