「トキワ荘マンガミュージアム」コロナ・ブックス編集部編
かつて豊島区椎名町にあったトキワ荘は、手塚治虫をはじめ、赤塚不二夫や藤子・F・不二雄と藤子不二雄(A)の両人など、マンガ界のレジェンドたちが、若き日に共に暮らした伝説のアパートだ。
1982年に取り壊されたが、跡地近くの公園に昨夏、当時の姿を忠実に再現したミュージアムとして復活した。
蘇ったそのマンガの聖地を案内してくれるビジュアル・ガイドブック。
トキワ荘のマンガ家住人第1号は、1952年竣工の翌年から住み始めた手塚だった。手塚の部屋は、階段で2階に上がってすぐ左側の14号室。手塚が1年半ほどで引っ越すと、その部屋には藤子不二雄(A)が、そして隣の15号室に藤子・F・不二雄、16号室は赤塚、17号室には石ノ森章太郎が同時期に住み、他にも彼らの兄貴分だった寺田ヒロオなど計10人のマンガ家が暮らした。
設計図が残っていなかったので、ミュージアムは彼らが描いた見取り図や写真などから再現。
手塚が足音で誰が来たのか分かったと回顧する階段のギシギシと鳴る音や、部屋によって異なるふすまの絵まで忠実に再現するほどのこだわりだ。
深夜に流し場で水浴びをしたとの逸話がある共同炊事場には、彼らがよく利用した近所の中華料理店の丼が置かれるなど、往時を彷彿させる。
壁の隙間から臭いが漂い、離れた部屋の住人が食べているモノさえ分かったというボロアパートだったトキワ荘。その古びた感じもエイジング(経年変化)を施すことで再現され、徹夜明けのマンガ家が眠たい目をこすって部屋から現れそうだ。
彼らが残したトキワ荘に関する文章やイラスト、インタビュー、当時の写真なども多数収録。
若き巨匠たちのマンガにかける情熱や暮らしぶりが目に浮かぶようだ。
(平凡社 2200円)