「インド神話物語百科」マーティン・J・ドハティ著 井上廣美訳
約11億人もの信者がいるヒンズー教は、キリスト教、イスラム教に次ぐ世界宗教だが、信者のほとんど(約10億人)がインドに集中しているため、あまり馴染みがない。
日本人にとっても、ヒンズー教といえば、ゾウの頭を持つガネーシャや、破壊と怒りの女神カーリー、それとシバ神など、代表的な神々の存在を知っている程度ではなかろうか。
そんな知られざるヒンズー教の歴史や神々、その神々が躍動する神話の世界を教えてくれるビジュアルテキスト。
ヒンズー教の起源は明らかではなく、預言者や教祖がいたわけでもない。普遍の真理が描かれた文書もない。その代わりに、さまざまな信仰行為をはじめ、共通の神話にもとづく無数の変種、同一の物語から生まれた多数の相反する異説が存在する。こうした多様性もヒンズー教の一部となっており、「自分とは大きく異なった道をたどって同じ目的に向かう人々がいてもかまわない」と容認することが基本。
一方で、ヒンズー教は、ビシュヌ神を最高神と崇拝するビシュヌ派、シバ神を最高神とするシバ派、そしてシャクティ(性力)を創造物すべての母として崇拝するシャクティ派の3つに大まかに分類される。
教徒は一部の神を、またはすべての神々を崇拝してもよく、まったく神々を崇拝しなくてもかまわないという。
そんな基本的教義、さらにそれぞれの神々にまつわるエピソードなどを多くの図版とともに解説。
その上でインドの2大叙事詩にして、ヒンズー教の重要な聖典である「ラーマーヤナ」と「マハーバーラタ」をはじめとする文献を、詳細に読み解いていく。
一読すれば、豊潤で奥深いインド神話の世界に圧倒されるに違いない。
(原書房 3520円)