「SDGsの不都合な真実」川口マーン惠美他著 杉山大志編

公開日: 更新日:

 世界中で大流行の「脱炭素」。SDGsのゴール7にも「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」と掲げられている。しかしその背景には意外な落とし穴があるとして、本書では各分野のスペシャリスト12人が徹底リポートしている。

 エネルギー問題でとくに注目されているのが水素だ。燃やしてもCO2が発生しない次世代のエネルギーとしてもてはやされ、東京オリパラでも水素で動く燃料電池バスが選手を運び、聖火の燃料も水素だと喧伝されていた。しかし、水素エネルギーには克服すべき問題が山積している。

 まず、エネルギーには1次と2次の2種類がある。石油や石炭などの化石燃料と原子力、水力や風力などの自然エネルギーは1次エネルギーであり、直接的なエネルギー“源”だ。一方、2次エネルギーとは1次エネルギーを加工して得られるもので、ガソリンなどの石油製品や、天然ガスまたは石炭から製造される都市ガス、また電力などが挙げられる。水素もこの部類に属しており、水素を「何からどのように作るか」は脱炭素を目指すうえで非常に重要な問題となる。

 現在、もっとも安価に水素を作る方法は天然ガスの中のメタンを水蒸気改質という方法で処理するものだが、実はこの際、メタンを燃やしたときと同量のCO2が発生するという。さらに、製造時に発生したCO2は圧縮して海底や地中に埋める方法が用いられるが、これにもエネルギーを消費してCO2排出が増えるというから本末転倒だ。

 本書では、メガソーラーや電気自動車、身近なレジ袋有料化まで取り上げ、脱炭素社会の負の側面を明らかにしている。環境保護は間違いではない。しかし、真実を知らなければ有害にもなり得るのだ。

(宝島社 1320円)

【連載】ポストコロナの道標 SDGs本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ヤクルトのドラフトは12球団ワースト…「余裕のなさ」ゆえに冒険せず、好素材を逃した気がする

  2. 2

    「汽車を待つ君の横で時計を気にした駅」は一体どこなのか?

  3. 3

    ソフトバンクは「一番得をした」…佐々木麟太郎の“損失見込み”を上回る好選定

  4. 4

    コメ増産から2カ月で一転、高市内閣の新農相が減産へ180度方針転換…生産者は大混乱

  5. 5

    オリックスまさかのドラフト戦略 「凶作」の高校生総ざらいで"急がば回れ"

  1. 6

    ヤクルト2位 モイセエフ・ニキータ 《生きていくために日本に来ました》父が明かす壮絶半生

  2. 7

    オリ1位・麦谷祐介 暴力被害で高校転校も家族が支えた艱難辛苦 《もう無理》とSOSが来て…

  3. 8

    “代役”白石聖が窮地を救うか? 期待しかないNHK大河ドラマ『豊臣兄弟』に思わぬ落とし穴

  4. 9

    福山雅治は"フジ不適切会合参加"報道でも紅白で白組大トリの可能性も十分…出場を容認するNHKの思惑

  5. 10

    バスタオル一枚の星野監督は鬼の形相でダッシュ、そのまま俺は飛び蹴りを食らった