「温暖化で日本の海に何が起こるのか」山本智之著

公開日: 更新日:

 陸上で暮らす人間にとって、森林破壊は重大な問題として捉えやすい。それでは、海はどうか。気候変動の影響は確実に海にも及んでおり、例えば海の熱帯雨林と呼ばれるサンゴ礁は猛烈なスピードで衰退。このままでは日本のサンゴ礁は2070年代には全滅するとの予測研究もある。本書では、日本近海の“海の温暖化”と生態系への影響について、豊富な研究データとともに解説している。

 日本が世界に誇る和食文化を支えてきた魚介類にも、海の温暖化によって大きな変化が表れている。例えば、安くておいしい庶民の魚として親しまれてきたサンマ。ここ数年は食べる機会が減っているという人も多いはずだ。不漁の年が目立ち、価格が高くなっていることが秋になるとニュースで取りざたされるが、その原因をつくっているのが、海の温暖化だ。

 サンマの生息域では冬に表層の海水が冷やされ、重くなって沈む。同時に、栄養に富んだ深い場所の海水が表層へ送られ、植物プランクトンを育てる役割を担っている。ところが、温暖化が進み海水が冷やされなくなったことで、植物プランクトンが育たなくなり、これをエサとする動物プランクトンも減少。2050年には、北海道沖の動物プランクトンは2000年の半分に、常磐沖では4分の1に減ることが示されている。動物プランクトンは、サンマのエサだ。このままでは漁獲量が減るのはもちろん、2050年にはサンマの体長は今よりも1センチ、2099年には2・5センチも小型化してしまうという。

 魚がこれまで通り捕れなくなるということは、生態系が大きく変わっているということ。その意味と恐ろしさを改めて知っておくべきだ。

(講談社 1210円)

【連載】ポストコロナの道標 SDGs本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    安青錦は大関昇進も“課題”クリアできず…「手で受けるだけ」の立ち合いに厳しい指摘

  2. 2

    阿部巨人に大激震! 24歳の次世代正捕手候補がトレード直訴の波紋「若い時間がムダになっちゃう」と吐露

  3. 3

    マエケン楽天入り最有力…“本命”だった巨人はフラれて万々歳? OB投手も「獲得失敗がプラスになる」

  4. 4

    中日FA柳に続きマエケンにも逃げられ…苦境の巨人にまさかの菅野智之“出戻り復帰”が浮上

  5. 5

    今田美桜に襲い掛かった「3億円トラブル」報道で“CM女王”消滅…女優業へのダメージも避けられず

  1. 6

    高市政権の“軍拡シナリオ”に綻び…トランプ大統領との電話会談で露呈した「米国の本音」

  2. 7

    エジプト考古学者・吉村作治さんは5年間の車椅子生活を経て…80歳の現在も情熱を失わず

  3. 8

    日中対立激化招いた高市外交に漂う“食傷ムード”…海外の有力メディアから懸念や皮肉が続々と

  4. 9

    安青錦の大関昇進めぐり「賛成」「反対」真っ二つ…苦手の横綱・大の里に善戦したと思いきや

  5. 10

    石破前首相も参戦で「おこめ券」批判拡大…届くのは春以降、米価下落ならありがたみゼロ