悩める現代人たち
「従順さのどこがいけないのか」将基面貴巳著
同調圧力に多様性の欠如、そして自由という名の不自由……。現代人を取り巻く悩みは深く大きい。
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政治の腐敗や社会の矛盾、権力の横暴に対して市民による抗議デモが起こるのは、世界中どこでも普通の風景だ。ところが日本ではどうか。安保法制問題のときも、モリカケ問題のときも市民がまとまって立ち上がるという光景は見られない。この国の人々はなぜかくも従順なのか。
ニュージーランドの大学教授の著者はヨーロッパ中世思想史の専門家だが、「日本国民のための愛国の教科書」など一般向けの啓蒙書で、日本の社会が権威に対して従順過ぎることに警鐘を鳴らしてきた。
本書はこれを真正面から題名に掲げた新著だ。60年前、アメリカの心理学者ミルグラムがおこなった実験は、明らかに非人道的と思われる行為でも「権威」が命じると大半の人間がこれに従うことを明らかにした。いわば人間のさがなのだが、規律や秩序を守ることが尊ばれる日本では、特にこの傾向が強い。同調圧力が無意識に働いているのだ。
しかし必要なのは「私たち自身の内面に確立されてしまった、服従する『習慣』」と戦うことだ。法や権威は正しいとは限らない。間違っている権威や権力に対しては「市民的不服従」を貫くことが重要だと説いている。
(筑摩書房 924円)
「マジョリティ男性にとってまっとうさとは何か」杉田俊介著
「多様性」はいまや時代の合言葉。しかし本当に多様性を理解している人はどのくらいいるのか。現代の日本では「男」で「異性愛」が「普通」とされる。それが「多数派」(マジョリティー)になっているからだ。
しかし本書を読むと、これがいかに危険な思い込みかがわかる。
なぜなら、それは「自分たちのあり方がこの社会の中で『ノーマルな』『一般的な』『自然な』ものと思い込んでしまっている」ことに過ぎないからだ。
ここに気づくことは意外に難しい。
バブル崩壊後の90年代後半に大学院卒ながら非正規のアルバイトを転々とし、資格を取って障害者介助ヘルパーとして働いた経験を持つ批評家の著者は子供向けアニメ「ズートピア」などを題材に、具体的に問題を解き明かす。
「#MeTooに加われない男たち」という副題が示唆的だ。
(集英社 1012円)
「自由の奪還」アンデシュ・ハンセンほか著 聞き手=大野和基
習近平の独裁体制を強める中国は香港を弾圧し、コロナ問題では強力に人々の自由を奪い、その「成功」をもとに権威主義国家の優位を見せつけている。他方、コロナで一気に進んだ社会のオンライン化は人々のつながりを希薄にし、社会のまとまりを弱めている。こうした事態にどう対処すべきか。本書はアメリカ在住のジャーナリストが世界各国の知識人にコロナ禍の時代における社会問題を問いかけたインタビュー集。
スマホをはじめとするデジタル機器が人間の知性と感性に負の影響を与えていると説くのはベストセラー「スマホ脳」の著者でスウェーデンの精神科医A・ハンセン。SNSの過激な投稿などをAIで監視・防止しようとするのは解決策にならないというのはアメリカのデジタル社会の研究者S・ウーリー。日本でも話題になった「西洋の自死」の著者でイギリスのジャーナリスト、D・マレーは移民問題にふれて現代の欧州はまるで移民の「ホテル」になっていると警告する。
世界視野で現代の問題を見るのに役立つ新書だ。
(PHP研究所 1012円)