東京五輪トホホ音頭
「東京五輪の大罪」本間龍著
米国の外交ボイコットで政治問題化する北京冬季五輪。2月の開催を前に、もう一度昨年の東京五輪を振り返ろう。
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コロナ禍の大嵐のもとで強行された東京オリンピック。しかしコロナがなくともその開催はそもそも無理筋だった。なにしろ招致活動ではJOC竹田会長がアフリカ諸国の票の買収疑惑を起こし、安倍元首相は福島原発を「アンダーコントロール」と安請け合い。さらに五輪エンブレム盗作問題から競技場建設のトラブル、森喜朗組織委員会会長の女性差別発言。開会式の直前には音楽担当と演出担当のミュージシャンやプロデューサーらが過去のイジメや差別言動で辞任を余儀なくされた。
それほどのトラブル山積にもかかわらず強行されたのはなぜか。その謎を解く本書の著者は元博報堂のベテラン営業マン。
東京五輪の舞台裏が電通のやりたい放題だったことは周知だから、元同業者の告発ともいえるが、著者は原発問題の政府プロパガンダに広告代理店がからんだ事実などについて既に著作がある。
権威主義にかたむく中国での北京五輪では内部トラブルなどが表に出ることはないだろう。だが、巨大ビジネスと化した現代の五輪事業は、どこの国であれ癒着と腐敗がつきもの。本当にこんな利権イベントが必要なのか、改めて考えるべき時機だろう。
(筑摩書房 902円)
「検証 コロナと五輪」吉見俊哉編著
かたや高度成長時代の輝かしい記憶とともに生き残る「五輪神話」。かたや「失われた30年」からの復活の兆しさえ見えない現代の日本。その落差を象徴したのが昨年の東京五輪だろう。
東大の「学際情報学府」にゆかりのメンバーによる共同研究の報告書として企画された本書は、もとは「上野・湯島・秋葉原」地区と「六本木・青山・原宿」地区の比較から始まったらしいが、本書ではコロナ襲来のもとで「呪われた五輪」をめぐる迷走とメディア報道の混乱などを中心にした情勢分析が中心になっている。
韓国、中国、米国などのメンバーも執筆して新たな知見を示している。
(河出書房新社 968円)
「オリンピック100話」ムスタファ・ケスス著 芦立一義訳
北京五輪の「次」にひかえるのが2024年のパリ五輪。本書は仏「ル・モンド」紙の記者が書いたオリンピック史上のエピソード集だ。
19世紀末、平和だった時代のヨーロッパで、国家の枠を超える古代の理想の再現を夢見たクーベルタン。当時の体育教育の理念だった「より速く、より高く、より強く」のスローガン。初期の五輪はエリート階級から庶民へとスポーツの輪が広がる状況を反映した。
やがて人種のイメージが台頭してジェシー・オーエンスやカシアス・クレイ(モハメド・アリ)が登場。またソ連や中国などが国家の威信をかけて五輪に挑んできた。ミュンヘン五輪のテロやロス五輪以来の商業化など、五輪の歴史は混乱の歴史でもあると知らされる。
(白水社 1320円)